ミスター・ベースボールのレビュー・感想・評価
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細かい日本野球描写が面白いが、物語は恋愛パートが悪目立ち。
○作品全体
ところどころフィクション特有のヘンテコ日本が出てくるけれど、メジャーと日本プロ野球の違いはうまく表現されてる気がした。
しかも選手目線の地味な部分にスポットを当ててるから、尚更リアルに感じられるのが面白い。ただ、作中で比較したりすることがないからわからない人にはわかりづらい。
例えばロッカールーム。靴を脱ぐ脱がないの文化の違いっていうのはわかりやすいけど、メジャーのロッカールームと日本のロッカールームの広さも文化の違いだ。『マネーボール』に出てくるアスレチックスのロッカールームは古くてボロいっていう描写があるけど、さらにその下を行く本作の中日ロッカールーム。実際の西武のロッカールームなんかは2010年ごろに選手のブログに載っていたけど、高校の部室みたいな狭さで男子高校生が作ったような漫画の棚なんかがあったりした。最近は日本の球団もどんどんとロッカールームを新しくしたり風呂場も広くしたりしてるみたいだけど、それもここ5、6年の話で、本作が公開されて25年くらい経ち、ようやく「リトルリーグ」から改善されていったのが実際のところだ。体格の良い主人公・ジャックが狭苦しくしているだけでもその表現にはなっているけれど、具体的に言及はしないからわかりづらくもあり、知っている人はニヤリとできる要素でもある。
ウォーミングアップや全体練習の長さが全然違う、というのが90年代初めに着目されているのも面白い。ジャックが直接文句を言ったりしていないから目立ってはいないが、全体練習や走り込みの多さに困惑するシーンはあった。最近は一部日本球団でキャンプの全体練習を短くしたり、個別調整に寛容になったところも出てきて、こちらもようやくメジャー式が普及し始めたばかりだ。
必ずしも日本式の調整方法が悪いというわけでは無いけれど、ジャックの言う通り野球を楽しめていない集団主義の野球はずっと根付いていて、それに苦言を呈すプロ野球選手も少なくない。当時のプロ野球ファンは本作を見て日本プロ野球の異質さを「国民性の顕れ」というポジティブな感情で受け止め、ジャックが順応していくことを嬉々として見ていたのだろうけれど、2024年に見る本作は最後にジャックがスクイズを選択したことも含め、「あの頃の日本プロ野球」を冷めた目で見たくなる。一方で細かい部分ながらそれぞれの野球の違いと今昔のプロ野球の違いを感じることもできて、野球ファンとしては興味深いシーンがたくさんあって楽しめたのも事実だが。
物語の部分は正直イマイチ。ドラゴンズの面々と衝突したり打ち解けていくところはチームの物語としてすごくよかったんだけど、ヒロ子との恋愛パートが超絶蛇足すぎる。
ヒロ子がジャックに近づく理由もよくわからないし、仲良くなる過程もぶつ切りで進んでいくような感覚。ヒロ子を「ビッグネームの西洋人に憧れる、斜め後ろをついて歩くアジア人女性」という俗物っぽいキャラクターにしたくなかったんだろうけれど、その結果「自分から近づくくせに変なところで頑固な気難しい女」っていう変なキャラクターになってしまっていた。内山監督との和解も別にヒロ子を挟まなくても良かっただろうし、プロ野球やチームと共にジャックの物語を進めてほしかったと感じた。
ジャックがシュートを克服する過程もすごく曖昧。走り込んだり下地を作るシーンはあれど、シュートを打てるようになる明確な描写がないからカタルシスがない。スランプ脱出の描写はあれど、気づけば7試合連続本塁打の話になってしまった。
ラストシーンも微妙。気づけばジャックはデトロイトへ移籍し、日本球界という「リトルリーグ」を脱出できた、みたいなオチ。内山監督やチームのみんなにリスペクトはあれど、所詮助っ人で日本に居場所はない…みたいな感じがした。確かに90年代初めのプロ野球はメジャーに行く選手もいなかったし、格下であることは間違いないけれど…。
野球をチームスポーツとして描かれるのであればヒロ子もでしゃばらなかっただろうし、チームでの一幕もたくさん描かれていたのだろう。物語の中心がイマイチ掴みづらく、残念な部分が多い作品だった。
これってコメディー映画なんですか?
コメディー映画のはずなのに、一体どの部分でお客さんを笑かそうとしているのかまったく不明の作品です。
それは冒頭から始まります。朝目覚めたジャックは、女と一緒にベッドにいる。ところがカメラを引くと、室内には同じようなベッドがたくさんあって一台毎に裸の女が寝ている……。これって「それだけジャックはビッチが取り囲っている」というオーバーな表現だと思うんですが、はっきり言って意味不明な図にしかなってないんですよ。
それはジャックが中日ドラゴンズに入団してからも続きます。
中日の入団会見で、ジャックはマスコミの前で皮肉交じりのことを言います。それを通訳が当たり障りのない内容に改竄して翻訳する……って、おいおいちょっと待て! 入団会見にいる記者の中に、誰一人として英語の分かる奴がいないというのは絶対あり得ないでしょう。それに、この記者会見をテレビカメラで撮影されていたら「あっ、こりゃ通訳が意図的にコメントを改竄してるぞ!」という流れに絶対なり、そうなると中日そのものが非難されてしまうかもしれません。
そんな馬鹿なこと、通訳が勝手にやるわけないじゃないですか。
高倉健演じる内山監督は、どう見ても星野仙一がモデル。けれど、内山監督は審判に抗議するジャックを「あんな抗議をするとは何だ。球団の恥だ!」と責め立てます。……いやいや、中日の監督やってた頃の星野仙一って、乱闘が発生したら誰よりも先にダイヤモンドに躍り出る人じゃなかったですかね?
それと、ジャックに与えられた「Mr.BESUBORU」という渾名……いや、あの……大抵の日本人は「BASEBALL」くらい書けますって。単に発音がそんな感じってだけですよ。こんな具合に、この映画では「間違った日本」がふんだんに散りばめられています。
そしてもうひとつ、ジャックの備品破損について。室内でバット振り回して物壊すって、これ星野仙一もやってるんですよね。「日本の野球は礼儀が第一」というのはとんでもない誤解だということは、90年代の星野を見ていたらすぐに理解できたはずなんですが……。
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