「ウッドベースをかかえるヒッチコック」見知らぬ乗客 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ウッドベースをかかえるヒッチコック
交換殺人を切り出されたガイは一笑に付す・・・というか、陰険そうで勝手に話を進めるブルーノには嫌気さえ覚えてた。そのブルーノはガイの承諾も契約も一切ないのに、遊園地で男友達と楽しむミリアムを絞殺してしまったのだ。ミリアムとガイの仲は修復しがたいもの。なにしろ、尻軽女で夫以外の男の子を宿していたのだ!そうした事情をブルーノはなぜか詳細に知っていたことも不気味な設定だ。
交換殺人が完全犯罪となりうるためには互いに全く赤の他人であることや、動機が全くないこと以外に、完全なアリバイがなければ成立しない。この物語においては、勝手にブルーノが行動に移し、ガイの側にアリバイがあるかといえば、不完全そのもの。アンにせよ、上院議員にせよ、アンの妹バーバラ(パトリシア・ヒッチコック)までもが喜んではいたものの、ガイには常に張り込みがつくほどだった。そんなガイのもとに、ブルーノからターゲットである父親の滞在先の見取り図、鍵、さらに拳銃が送られてくる・・・「早く俺の父を殺せ」と脅迫されているのだ。さらにブルーノはテニス試合会場やパーティに現れ、じわじわと周囲の人間にも接近してくる。やがてアンは彼の異常さに気づいたため、ガイは真実を話し始める。しかし、このままでは警察に話したところで単に委託殺人だとされてしまうのだ。
ガイは直接ブルーノの父親に告白するため深夜に邸宅に赴くが、そこにいたのはブルーノ本人だった。「君は約束を守る気はないんだな?」と、逆にブルーノをキレさせてしまう。アンも直接懇願するも、証拠品となる彼のライターを現場に置いてくるぞ!と、ガイを真犯人にすると脅迫される。
クライマックスはライターを殺害現場に置きに行こうとするブルーノと、試合を棄権すれば疑われるガイが試合を終わらせてブルーノを追おうとするシーンを交互に描く。ライターごときで犯人が間違われるわけないだろうと、話が安っぽい方向に向うのだが、メリーゴーランドが制御できなくなりパニックとなるディザスター描写が凄い。執拗な異常者と、いかに相手の脅迫をくいとめようとする純朴なテニスプレーヤーの心理が面白い。“A to G”と彫られたライターと、ブルーノの名が刺繍されているネクタイ。小物もさすがだし、ウッドベースを持って列車に乗り込むヒッチコック監督がいい。