劇場公開日 1991年2月16日

「最も悲惨(ミザリー)な執筆活動」ミザリー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最も悲惨(ミザリー)な執筆活動

2012年9月22日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、TV地上波

悲しい

怖い

久々に、勝手にキング原作映画特集その8。
今回は『ミザリー』!

ミザリーという女性が主人公のロマンス小説で
名を馳せた作家ポール・シェルダン。
ミザリー人気の陰で自分の書きたい小説が
書けない事にウンザリしていた彼は、
新作の中で遂に彼女を“殺害”する。
そんな矢先、ポールは雪山で自動車事故に遭う。
半死半生の彼を救出したのは
アニー・ウィルクスという元看護婦。
怪我で身動きの取れないポールを自宅で
親切に介抱するアニーだったがしかし、彼女は
ミザリーを聖女のように崇拝する異常な女だった……。

アニーを演じたキャシー・ベイツは本作でアカデミー賞
主演女優賞を受賞。原作者キングも彼女を絶賛。
後に書かれた小説『ドロレス・クレイボーン』の
主人公は初めから彼女を想定して書かれたという。
(『ドロレス〜』は『黙秘』として'93年に映画化。
 主演は言うまでもなくキャシー・ベイツその人だ)

原作の記憶が鮮明だった頃は
『ポールの絶望や恐怖が伝わらない』とか
『アニーが単なる怪物にしか見えない』とか
感じたのだが、それは僕の映画的な読解力が
貧相だったからに過ぎなかったらしい。
(ま、今も貧相ですがね)
この度改めて鑑賞し、非常に良く
纏まった上質なスリラーだと感じた。

まずは主演ジェームズ・カーン。
アニーへの嫌悪と恐怖をひた隠す、その抑えた演技が実に良い。
一見謎めいた行動が後の展開への伏線だったと分かる流れにも、
小説(言葉)でなく映画(映像)ならではの面白さを感じる。

キャシー・ベイツは原作通り“ドラゴンレディ”と呼ぶに
相応しい、怪物のような威圧感と狂気を放っている。
同時に、疎外される者の悲哀が滲み出ている点が見事だ。
暗がりで拳銃を虚ろな目で見つめる姿は恐ろしくも哀しい。

一方で、
リチャード・ファーンズワース演じる老保安官と妻の
コンビが良い味。漫才のような掛け合いが可笑しい可笑しい。
だが笑えるだけでなく、青空の下の明るい場面は
狭く暗い監禁空間との良い対比になっている上、
アニーに対する包囲網が徐々に狭まっている
というサスペンスも生んでいる。

以上!
深過ぎるファンの愛情が狂気に変わる
この秀作スリラー、未見の方は是非。

あー、ところで最後に若干イヤなプチ情報をひとつ。
鑑賞済の方は、ハンマーが登場するあの
ショックシーンを覚えておいでだろうか?
原作ではね、実はハンマーは登場しないんすよ。
代わりに登場するのは……斧とBBQグリル。
使用法は……ご想像に任せます……。

<了> ※2012.09初投稿

浮遊きびなご