「19世紀の維納(ウィーン)を醸し出す戦前オーストリア映画のロマン主義」未完成交響楽(1933) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
19世紀の維納(ウィーン)を醸し出す戦前オーストリア映画のロマン主義
「ブルグ劇場」「たそがれの維納」のヴィリ・フォルストの監督デビュー作。名曲でありながら4楽章まで作曲されず2楽章の未完で残され、後世にシューベルトの代表作の一曲になっていることから生まれた偉人映画。古典派からロマン派初期の作風で最も詩情豊かな音楽を作曲したシューベルト像をそのままに表現した、淡い初恋と名曲を関連付けたストーリーの創作が、19世紀の雰囲気を出している。「たそがれの維納」の演出の鋭さ、「ブルグ劇場」の深みのあるストーリーの面白さは無いが、繊細で素朴な演出タッチが好感持てるオーストリア映画になっている。シューベルトを演じるハンス・ヤーライの適役で、31歳の若さで夭折した天才の儚さを醸し出している。そして、当時のウイーン・フィルの演奏が記録されている価値も高い。
シューベルトの未完成交響曲は、演奏会で取り上げられることが少ない。幸運にも、1984年のクラウス・テンシュテット初来日の演奏会で聴くことが出来た。オーケストラはロンドン・フィルだったが、ドイツロマン派の王道を行くテンシュテットの名指揮の御蔭で、ロマン派音楽の神髄に聴き惚れた感動が今でも忘れられない。
talismanさんへ、コメントありがとうございます。
数は少なくも若い頃に観た戦前のドイツ・オーストリア映画が大好きです。今から見れば単純で素朴なストーリーで物足りないでしょうが、19世紀から20世紀初頭の文化や風俗が偲ばれて、私には堪りませんでした。
戦前の日本の風俗に関して、面白い話があります。神戸出身の淀川長治さん(谷崎潤一郎との交友が有名)の映画本で、ある映画好きの良家の親子喧嘩をなだめた逸話を知りました。それはフランス映画(主にデュヴィヴィエ監督作品)に夢中の息子が、ドイツ映画しか認めない父親から勘当されそうになったのを止めに入ったそうです。映画の好みで勘当とは大袈裟でも、家父長制の時代ではあり得ると思います。当時の上流階級や知識人の価値観では、ドイツ文化や哲学、小説、映画が模範的な教養として捉えられていたようです。当時のドイツ映画の厳格さに一目置いていたとしても、フランス映画の豊潤なペシミズムも大好きな私には、無駄な言い争いです。映画の好き嫌いで喧嘩するほど映画を知らないことになるし、お互いの好みを尊重することが、映画を更に楽しむことに繋がると思います。