「本作のテーマはNY賛歌です 痴話話なんか、このニューヨークの日常を見せるための仕掛けであるだけでどうでもいいことなのです」マンハッタン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作のテーマはNY賛歌です 痴話話なんか、このニューヨークの日常を見せるための仕掛けであるだけでどうでもいいことなのです
1979年4月米国公開
本作のテーマはNY賛歌です
「I♥NY」のロゴは誰でも知ってるでしょう
マグカップとか、Tシャツはニューヨーク土産の定番です
このロゴはニューヨーク州が1978年に始めた観光キャンペーンのロゴでした
70年代のNYといえば、現在からは想像できないほど荒廃していて、街は汚くゴミだらけで、強盗や暴動が頻発、犯罪件数はどんどん増えるばかり
しかも財政破綻の危機にあり、公務員の大量リストラが続いて改善の糸口もない状態だったのです
犯罪都市ニューヨークとか言われていました
アニー・ホールの公開から3ヵ月後の1977年7月には大停電が起きて、それがまる1日も続いたものだから略奪まで起きる始末
裕福な白人達は郊外や他都市に逃げ出して人口が減り始めたぐらいでした
本作の劇中で、コネチカット州に引っ越したいとかの台詞はそれです
これはなんとかしないとならないと、1978年の新年から生粋のニューヨークっ子ブロンクス生まれのエド・コッチ市長が就任して改革にのりだします
彼はベテランの下院議員だったのにそれを辞職して市長選に立候補して当選したのです
彼は1978年から89年まで3期にわたり市長を務め深刻な財政難に陥ったニューヨーク市の再建に尽力しました
急進的な改革が物議を醸すこともありましたが、
治安問題にも積極的に取り組んで犯罪が減少したほか、ホームレスやエイズ感染者の数が大幅に減少したのです
「I♥NY」の観光キャンペーンは1978年のバレンタインデーにスタートしました
ブロードウェイの俳優、歌手、ダンサーが次々に「アイラブニューヨーク」のテーマソングを歌うテレビCMが、全米とカナダで5週間放送さたのです
このキャンペーンは、今でも遠い日本の私達が知ってるぐらい、世界的な超大成功を収めます
世界中から旅行の問い合わせが急増して、「I♥NY」のロゴが入ったTシャツやマグカップなどのグッズも次々に発売されるようになったのです
こうなると面白いことに、ニューヨーカーの意識にもポジティブな変化が起きたのです
自分たちの街へのプライドと愛着が芽生え、平気でゴミが投げ捨てられていた街の通りは自然ときれいになって行ったのです
この「I♥NY」キャンペーンが、ニューヨーカーの意識改革を起こしたのです
本作の冒頭、ウディ・アレンはこう宣言するのです
「彼はNY を愛し偶像化していた」
「ロマンチックに考えていた」
「彼はマンハッタンに惚れていた」
「街の雑踏で育ったのだ」
「NY は美しい女であり、世慣れた男だった」
本作はその観光キャンペーンの一環のような映画なのだと思います
いわばNY 観光のプロモーション映画なのです
ウディ・アレンもブロンクス生まれの生粋のニューヨークっ子
誰よりもNYを愛していたのです
彼も自分の出来ることでNYを盛り立てたかったのです
あらすじはどうでもいい痴話話で内容なんかありません
ウディ・アレンの自虐ネタというだけで、そんなもの真剣に追いかけたってなんの意味もありません
主人公はウディ・アレンですらありません
ニューヨークそのものが、本当の主人公なのです
ニューヨークの街並み
その中の人びとの暮らし
そこでは、どんな人がどんな生活をして、どんな会話をして、どんな日常が繰り返されているのか
それが本当のテーマなのです
痴話話なんか、このニューヨークの日常を見せるためだけの仕掛けであるだけでどうでもいいことなのです
だからお話は果てしなくつまらないし、そんなもの付き合っていたってなんにも得ることはないのです
痴話話なんか話半分で受け流していいんです
観るべきものは、ニューヨークの光景です
摩天楼のスカイラインだけでなく、なんのことのない街角の光景、クラブの中、橋、通り、アパート、ニューヨーカーの暮らし振り
それが本作が本当に言いたい、観せたいものなのです
だから、全編ジョージ・ガーシュウィンの「Rhapsody In Blues」なのです
それもニューヨークフィルの演奏です
ガーシュイン自身、ニューヨークはブルックリンの生まれです
彼の音楽こそニューヨークの雰囲気を現しているからなのです
そしてその音楽に相応しい映像は白黒なのです
それゆえに全編モノクロで撮られているのです
冒頭にウディ・アレン自身がそれを語っているではありませんか
「彼にとって街は常に黒と白の存在であり、ガーシュインの曲だった」
The Crusadersという有名なジャズクロスオーバーのバンドがあります
彼等のアルバムに「Rhapsody And Blues」という1980年の作品があります
多分、本作にインスパイアされて制作されたアルバムだと思います
ぜひ合わせてお聴き下さい
ところで、なんで東京にこんな映画がないのでしょうか?
おかしいじゃないですか