「殺伐感が激下がり。」マッドマックス サンダードーム image_taroさんの映画レビュー(感想・評価)
殺伐感が激下がり。
冒頭から80年代のポップソングという感じの曲が流れて、マッドマックスの割には随分とウェットだなぁ…という違和感を持つところから始まる。全体のビジュアル的には、『怒りのデス・ロード』にもつながる感じで、かなり凝って作られており好感が持てる。ハリウッドも絡んできたから、大金が投入されたのか、ゴージャスな作りだ。
恐らく、最大の違和感の原因は2つ。
ひとつめ。寡黙であまり喋らない不器用な男のはずのマックスが、随分と人とうまくコミュニケーションをとっている。そして、随分とよく喋る。マックス・ロカタンスキーのキャラクターとしての整合性はどうなっているんだろう?と考えてしまう。
ふたつめ。大勢の子どもたちが登場。子どもがこれだけ出てくれば筋書きも優しくなるし、マックスも子どもたちに優しくする。どうやら、ゴールディングの『蠅の王』への目配せがあるようなので、これだけ大勢の子どもが出てくることになったようだが、どうせなら『蠅の王』同様に子どもたちの間で殺伐としたやりとりをさせれば良かったのに、そうはならない。ハリウッドが作る大衆向けの映画で、子どもたちに残酷なことはさせない。
というわけで、全体的に随分とトーンが明るくなった。音楽も時に賑やかに楽しげに鳴っている。これはマッドマックスなのか?というほどに。マッドマックスの最大の特徴と言って良いハードなカーアクションのシーンも随分と少なくなってしまった。
やはり、マッドマックス・シリーズの根本的な基調は「殺伐感」だと思うし、その中で必死に立ち回るのを観たいので、本作はやっぱりちょっとズレてる感じがしてしまう…というのが多くの人の感想かもしれない。
ただ、いま観れば、これも『怒りのデス・ロード』に至るには必要なひとつのステップだったのだな…というのはなんとなく分かるような気がする。ミラー監督の中での試行錯誤と、大金を動かすスタジオの思惑とのやりとりの中で、今作はここに落ち着いたが…長年にわたって実績を積んだが故に、自分が好きなように『怒りのデス・ロード』を作ることができるようになったんだろう。それはそれでよしとしよう。