魔女(1922)
1922年製作/80分/スウェーデン
原題または英題:Haxan
スタッフ・キャスト
- 監督
- ベンヤミン・クリステンセン
- 脚本
- ベンヤミン・クリステンセン
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ベンヤミン・クリステンセン
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マーン・ペーダーセン
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アストリッド・ホルム
1922年製作/80分/スウェーデン
原題または英題:Haxan

ベンヤミン・クリステンセン

マーン・ペーダーセン

アストリッド・ホルム
最初は神秘主義的な映画なのかなと思って観たのですが、実際にはまったく違いました。
ベンヤミン・クリステンセン監督の『魔女(Häxan)』は、魔女という存在をオカルトや恐怖の対象として描くのではなく、「人間が何を信じ、どう恐れてきたのか」という問いを正面から見つめた作品です。
単に物語を進める映画ではなく、ドキュメンタリー的に“魔女とは何か”を解説しながら、再現映像を通して観客に信仰の構造そのものを体感させていきます。
特に印象的なのは、監督自身が演じる悪魔の造形や、部屋・祭壇・小道具などの緻密なミザンセーヌです。
1922年の作品とは思えないほど細部まで作り込まれており、後のリドリー・スコット『レジェンド』などにも通じるような“形の美しい悪魔”が登場します。
また、魔女が空を飛ぶシーンなどでは多重露光を巧みに使い、まるで現実と幻想が一枚のフィルムの中で重なり合うような不思議な感覚を生み出しています。
技術的には古いのに、なぜか本当に起きているように感じる――その“幻視のリアリティ”こそ、この映画の恐ろしさだと思います。
物語の後半では、魔女狩りの悲劇を経て、現代(当時)の精神医学に話が移ります。
監督は、かつて魔女と呼ばれた人々が、実際にはストレスや社会的抑圧によって心を病んだ女性たちだったのではないかと語ります。
つまり、悪魔が「存在するかどうか」という問題を、「見えるか、見えないか」「信じるとは何か」という問いに置き換えているのです。
そこには宗教やオカルトを否定する姿勢ではなく、むしろ信仰の消えた時代に人間が何を拠りどころに生きるのかという、非常に現代的な視点があります。
第一次世界大戦後、神への信頼を失い、代わりに科学や精神分析が“新しい信仰”のようになっていった時代。
『魔女(Häxan)』はその転換期に生まれた映画であり、宗教と理性、迷信と科学のあいだで揺れる人間の姿を、映像そのものを使って問いかけています。
しかしここで描かれる「理性の勝利」は、決して単純な進歩ではありません。
科学はやがて新しい宗教となり、白衣をまとった異端審問官が現れる。
つまり、形を変えた救済の名のもとに、再び人間は支配されるのではないかという不安が、この映画には強く流れています。
それは過去の迷信を描いていながら、実は未来の全体主義や監視社会の原型を予感していた作品でもあるのです。
古いのに新しい、怖くないのに怖い。
『魔女(Häxan)』は、観る者の“信じる力”そのものに干渉してくるような、稀有な映画です。
そして100年後の今もなお、「私たちは本当に“理性の時代”を生きているのか?」と問いかけてきます。
鑑賞方法: Youtube
評価: 88点