「主役はキリスト」ベン・ハー(1959) everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
主役はキリスト
長編なので、なかなか腰を据えて鑑賞する機会がありませんでしたが、ようやく。
まず驚いたのが、映像がとても色鮮やかなこと。美術セットや小道具は、いかにもチープな所がありましたが、色使いがセンス良くて上手いと思いました。そして白馬達の美しいこと!人懐っこくて良く調教されていました。
Judah Ben-Hurが主役の物語部分は、素晴らしかったです。映像の配色だけでなく、内容が現在でも全く色褪せていません。あまりにトントン拍子な出世でしたが、映画史に残る傑作と呼ばれることに納得しました。
よく分からなかったのは奴隷の描き方。時代は違いますが、例えば"Agora"では、奴隷と自由人との差が明確でした。こちらでは、囚人の扱いは最悪として、奴隷と使用人・家政婦の差があるのか、所有者の判断によっては養子にもなり得てしまうのか、奴隷と自由人の生活に、そこまで高い垣根はないように見えました。
映画はChristの誕生から始まり、磔と復活寸前?で終わっています。正直私はBen-Hur冒険人生の部分だけが好きです。でもこの作品全体の主役は、副題通りChristなんですね。Ben-Hurの波瀾万丈な物語でChristとの接点はわずかですが、スクリーンに登場していなくても、イエス様は全部見てましたよ、ということなんでしょうね。
Ben-Hurが復讐の鬼と化すのを防ぐのは、レースの勝利により成功した敵討ちでも、女性の愛でもなく、Christの慈悲でした。汝の敵を愛せ、愛は憎しみに勝つと言うChrist。一方、ローマ人としての義父となるArriusは、戦艦内で "Hate keeps a man alive. It gives him strength."と、憎悪こそエネルギー源だと語っています。終盤、Ben-HurはArriusの指輪を手放して、Christを崇めるようになっていきます。こんな辛い目にあった人もChristにより正しい道へ諭されるというのがテーマなんだと思いました。ハンセン病が治癒する奇跡のハッピーエンドも、全てChristのお陰という訳です。
Christ役の人はクレジットされず、顔も声もないので、信者達のイメージを壊すことがなく、キリスト教圏には受け入れられやすかったのでしょう。詳細に描いたMel Gibsonの "The Passion of the Christ" の方はめちゃくちゃ物議を醸しましたね。