「まともな人間こそが背負わされる心の傷」ペパーミント・キャンディー Rosaさんの映画レビュー(感想・評価)
まともな人間こそが背負わされる心の傷
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以前から、この映画のタイトルを知っていた。韓国映画史に残る名作だと。それが日本で公開されると聞いて、迷わず観に行った。
現代の感覚からすると、時間を遡っていくことで、オープニングの出来事の背景がわかってくるといった演出もそれ程珍しい作りではない。ただ、観終わった後に、心に何かがずっしりと残るのは、韓国現代史の負の部分が一人の男の人生に大きく影を落としている重さと、その男性を演じる俳優の迫真の演技のためだろう。
私の個人的な記憶だが、この映画を観て思い出したことがある。
私の義母が彼女の父親について語ったこと。彼女の父は、動物も殺せないとても心の優しい男性だったが、戦時中に軍隊で満州に連れて行かれ、山羊を殺す訓練の時に、どうしても山羊を殺すことができなかった。そのために、上官から雪の中で百叩きの刑にされ、半殺しの目に遭った。そのような記憶から、戦争が終わって日本に戻って来てからもアルコール中毒になってしまい、死ぬまで夢を見てはうなされる後年だったという。もしかしたら、山羊の話は彼が軍隊で経験したことの一部分に過ぎず、本当はもっと辛い、人に話せないようなこともあったのかも知れない。
この映画の主人公が遭遇した光州事件での出来事や、戦争といった場面では、普通の感性や優しさを持った人間は、心に深い傷を負ってしまい、そこから解放された後も何もなかったように元の生活に戻ることはできないということなのだろう。
若い頃に観た、ロバート・デ・ニーロの「タクシードライバー」を思い出させられた。
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