「停滞という名の地獄を描き切った見事な作品」ブエノスアイレス さとうさんの映画レビュー(感想・評価)
停滞という名の地獄を描き切った見事な作品
王家衛作品は二作目の鑑賞。
映像、カメラワークが美しくすっかり虜に。
どこまでいっても救われない関係性の2人…にっちもさっちも動けないし、愛し合っているのにお互い傷つけ合う。この停滞しきった地獄がほぼ全編通して続くのが、しんどいけれどめちゃくちゃ没入できて最高だった。
でも疲弊し切ったトニーレオンの前に現れた料理屋の後輩くんとの時間、そして彼の旅立ちの時に2人が抱擁するシーンがやっぱり一番良かったかな。あのシーンはこの映画の中で、憎しみから離れた一番純粋な人と人との愛を、唯一垣間見れた瞬間だった。
しかし王家衛、孤独を描くのがなんと上手いことか…。2人でいるのに消えることの決してない渇望や憎悪…孤独を埋めるために行くが何も満たされないハッテン場…。見ているこちらの心がジリジリ潰されるような感覚を味わえるのは、本当に凄まじい心情描写力と表現力。もちろん演技力もすごかった。
あとゲイカップルのリアリティ感もすごい。監督こういうカップルと暮らしてたことあるんですか??と思うほどのリアリティ…。
関係性としては男女カップルでもあり得るのかもしれないが、男女だったらたしかにこういう喧嘩の仕方にはあんまならないかもな、とも思うし、他にも「これは確かに男性同士のパートナーでないと描けない描写かもしれない」と思う部分も多くて、そこもなるほどなぁ…とひたすら感心。
ただ基本的に陰鬱というか救われない展開が続くため、「トニーレオンのこの地獄に最後まで付き合うか…屍は拾おう…」と思って覚悟を決めていたところ、ラストはスーパーハッピーエンドだったので度肝を抜かれた。
でもすごくよかった。これからも彼は孤独を抱えながら、時には失望も絶望もしながら困難な道を歩んでいくはず。未来が完全に明るいかと言われれば決してそうは言えない。けれどそれでも、あの後輩くんに会おうと思えばきっといつでも会いにいける。そう思えることが、この先の彼の人生を照らす光になるのだと思う。
闇の中で燦然と輝く、人間の解放と再生を綴った素晴らしい作品だった。
ディスクとサントラ買おうかな…。
