「20代のときに観たかった…」ブエノスアイレス andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
20代のときに観たかった…
ウォン・カーウァイはまったく観たことがなくて(!)、今回の特集上映もなかなか行けず、「ブエノスアイレス」を選択したのはチャン・チェンが出てるからというだけの理由である。ある意味ひどい。
率直にいえば、公開当時かもうちょっとあと、すなわち20代前半までの自分ならどハマりしたかもしれない。画もカットも、登場人物たちの関係も、モノローグも。
40代になった今観ると、どうしても一歩引いてしまって「まあね、そうよね」という感じになってしまう。歳取るとやはりどこか感性が摩耗するのだ。
痛いぐらいの愛を描きながら、レスリー・チャンのどうしようもないクズの魅力を見せつけられながら、どこか物語としては破綻してるでしょという気持ちになる。大量にカットされたシーンがあるそうなので、もっと長大で重層的な物語にしたかったのかな、とは思う。
そしてあの終わり方。良いと思う、その確信は。いやでも急激だろ…。急にそこで腑に落ちて終わるのかよ!という…。
しかし観終わったあとでパンフレット(というかこれは本だな)を読むと、さまざまな糸(意図)を自分が拾えていないことにも気付かされる。香港返還という時代情勢は知っていてもその視点では観られていなかったし。ファイとウィンの、その最後に見せる様の対称性にもあまり思いが及んでいなかった。そしてあの(ちょっとうざいとさえ感じた)モノローグ自体もウォン・カーウァイの特性なのだ。映画は深い…。
レスリー・チャンに「やり直そう」と言われたら、結局やり直してしまうんだろうな、という謎の説得力が彼にはあった。そしてそれを振り切るように、振り切れずにいるトニー・レオンの悲しさ。彼は常に悲し気。唐突に出てくるチャン・チェンは無邪気に美しかった。美しいとは悲しい、という気持ちは強く抱いた。