「血を流すような辛い別れ」ブエノスアイレス momoさんの映画レビュー(感想・評価)
血を流すような辛い別れ
心の変化ををそのまま映したかのように、モノトーンの世界から、色の着いた世界に変わる。
初めてこの映画を知ったのは、傷つき、心がモノトーンの世界になってしまっている時だった。
辛い辛いと思っていたら、そんなに辛いならこれを観ろと随分年下の男性に勧められた。
観てみるとゲイカップルの話で驚いたが、みるみるその映像美に惹き込まれた。
トニーレオンの役に感情移入した。
香港に帰るため、稼ぎのいい精肉店で働いている時に、赤い血を水で流すシーンは、執着を断ち切ろうとする傷だらけの、血だらけの心の中を洗い流しているように見えた。
離れられない気持ちと葛藤しながらも離れないと前に進めない。やり直すのはごめんだ。また同じ繰り返しになるから。
イグアスの滝の壮大な流れが執着を洗い流してくれるようだ。
人を愛しすぎてしまう人が、執着を断ち切る手助けをしてくれるのはイグアスの滝であり、新しい出会いだ。
カセットレコーダーのシーンが好きだ。
心の声は聞こえない。
聞こえないけれど悲痛な叫びがそこには確実にあったんだ。
2020年になって久しぶりに映画館でリバイバル上映されているのを観てみると、今とは時代が全く違う。
スマホもネットもない時代、タバコを吸っては酒を飲んで運転する。好きな後輩の実家で写真をこっそり盗んでくる。
そんな時代を振り返って、人が人に執着する気持ちも当時は今と違って随分、ウエットだったなと思う。今なら後輩の実家に行くなんてストーカー紛いと言われそうだ。
だけど、人が人を好きになる気持ちは今も変わらない。
表向きはドライな振りをしているだけで、心の中では傷つき血を流している人は今もいるのだろう。
久しぶりに、ウォンカーワイの世界観に浸りながらそんなことを考えた。
軽快なエンドロールのタートルズのハッピートゥギャザーの曲を聞く頃には、辛いことがあっても、前を向いて新しい世界に進んでいこうと思えるから不思議だ。