「消えゆく光からギラギラした光へ」日の名残り talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
消えゆく光からギラギラした光へ
執事であることに自負と責任を持ち、プロ意識の高さは同業の父親から継ぎつつ自分自身を「理想的執事」にぴったり合わせることが誇りで喜びであるMr.Stevens。それは彼の話し方、語彙の選択、学習したジョーク、声の大きさ、必要最低限の体の動き。新聞一枚一枚にアイロンをかけてからLordに手渡すシーンと焦げたトーストを自分のポケットに押し込むシーン(びっくりして思わず笑えた)。個人・私人としての意見は表明しない、無駄口は一切叩かない、表情も豊かに見えない。でもずっと見ているとホプキンスの目、顔、表情のちょっとした動きに気がつく。そのために130分を超える映画の長さが少なくとも自分には必要だったとわかった。
プライベートな空間に花は邪魔だと言っていたStevensだが、いつしか彼の部屋はMiss Kenton(エマ・トンプソン、生命力に溢れている)が庭で摘んでくる花束で満たされる。
貴族は政治や世界において所詮アマチュア。うまくあしらわれ使われるだけ。そういった貴族に仕える執事はプロフェッショナル。なんだか皮肉で滑稽だ。貴族も執事もある時代からどこに向かっているのかわかるわからないに関係なく途方に暮れる存在の一つだと思った。世界情勢の中では一日の夕暮れの一瞬にやっと存在できる立場、もはや当時は。または本当はもうずっと前から。キラキラと輝く朝も昼間もない。でもその輝いていた時を忘れないこともできる。忘れないで、その思い出と共に自分も消えていく。
映像、光と影、庭園の緑、屋敷の中の静けさと豪華なテーブル、うす暗さ、俳優の立ち位置、すべてが丁寧で繊細で美しく、一コマ一コマが絵画だった。
コメントありがとうございます!お久しぶりです。talismanさんのレビュー、一段と磨き抜かれた、流れる美しい文体でプロの小説家さんのようですね☺️。お声が治ってきたとのこと、良かったです。お大事になさってください☕️