「詳述せずに恐怖を描く、引き算の美学」ヒッチャー(1986) 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
詳述せずに恐怖を描く、引き算の美学
初めて観たのは日曜洋画劇場か何かだった気がする。当時、小学生だった私はルトガー・ハウアー演じる謎の男が怖すぎて、途中で観るのをやめた。だが40代の今、ニューマスター版となって帰ってきた本作を再見すると、これがビックリするほど面白かった。かつては幼心に「どうして殺人鬼を乗せちゃうんだろう?」と不思議でならなかったが、改めて見ると、何も無い一本道で主人公がウトウト眠りかけ、眠気覚ましの話し相手が欲しくて彼を乗せたという、いわば心理的な流れがきちんと描かれていることに驚かされる。これに加え、本作の鑑賞中、頭の片隅にずっと「殺人鬼はもしかすると彼の分身なのでは?」という仮説が残存するのも面白い。何を描くか、描かないかを慎重に見極めた本作だからこそ、詳述しない部分がかえって観る側の想像力を刺激する。何もかもがたっぷりと過剰だった80年代、この引き算の美学を実践できた本作は凄いし、だからこそ恐ろしい。
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