「アメリカの黄金期を代表する一本では。」巴里のアメリカ人 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの黄金期を代表する一本では。
フランスからの帰国便(AF)で鑑賞。
まず驚いたことは、テクニカラーの発色が豊かで、素晴らしいこと。隅々まで光に満ちていて、カフェの椅子ひとつまで輝いている。1952年のアカデミー賞で、作品だけでなく美術、撮影など6賞に輝いている。その代わり、冒頭のコンコルド広場、オペラ座、ホテル・リッツなどの場面を除き、そのほとんど全てがセットで撮影された。あの1932年のフランス映画「巴里祭」と同じ。
戦勝して退役後もパリに残って、画家として生きようとするアメリカ人、ジェリー・マリガン(ジーン・ケリー)。彼の友人で隣人のアダム・クック(オスカー・レヴァント)は、売れないコンサート・ピアニストで、フランス人の歌手アンリ・バウレル(ジョルジュ・ゲタリー)の長年の友人。アンリは若い十代のリーズ・ブーヴィエ(ジーン・ケリーがバレリーナから抜擢したレスリー・キャロン)を、言わば育て上げてきたのだが、今はガール・フレンドであり、既に婚約者でもある。
ジェリーはモンマルトルでも、なかなか絵が売れず苦労していたが、突然、ホテル・リッツの一室で暮らしているアメリカ人の富豪女性ミロ・ロバーツ(ニナ・フォッシュ)に見出され、パトロンになるとの申し出まで受ける。ところが二人で出かけたナイトクラブで、ジェリーは魅力的なリーズに出会ってしまう。最初は、しつこいジェリーから逃げ惑っていたリーズだが、やがて彼の愛を受け入れるようになる。
おそらく一番有名なのは、ラウル・デュフィ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、モーリス・ユトリロ、アンリ・ルソー、ゴッホ、トゥールーズ=ロートレックなどの印象派やポスト印象派の絵画を参考にしたセットを背景に、あのガーシュインの音楽に乗って展開されるジェリーとリーズのセリフのない17分間のダンスシーンだろう。間違いなく映画のクライマックスであり、莫大な投資をしたMGMと当時のアメリカの財力には、ただただ驚かされる。
私がこよなく好きなのは、ノートルダムの見えるセーヌの橋の下で、二人が語り合う夜の情景。パリ最高の散歩道の一つ。映画「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)にも出てきた。
おそらく、あのようなパリの情景を求めて夏休みのシーズンには、アメリカから学生が大挙、訪れるようになったのだろう。春と秋の観光シーズンには、アメリカからのお上りさんの団体が、パリを闊歩する。中国からの観光客が目立つ前には、日本人と並んで観光客の中心だった。映画「パリ、ジュテーム」(2006年)特に14区のエピソードが思い出される。
アメリカ人の中には、独立戦争の時の恩義もあり(古い!)、フランスが「母の国」であると思っている人が、今でもいるのではなかろうか。アメリカ人の憧憬が感じられる。