「思い出とともに振り返る名画」ハスラー つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
思い出とともに振り返る名画
「ハスラー」についてレビューを書くなら避けて通れないことがある。この映画、初めて観たのはもうかれこれ10年、いや15年くらい前だ。
当時の私はあまりにも無知で愚かだった。今は賢いのかと聞かれればそれも疑問だが、映画に関して言えば虫とか草みたいな存在だった。
「ポール・ニューマンなら観たことある」「最近ビリヤードやって面白かった」そんな軽いノリで手を出したもんだから、さあ大変。
白黒、二時間超え、90分にも及ぶプールシーン、次々に立ちはだかる強敵を前に呆気なく撃沈。
ギブアップを宣言して、寝た。だから正確に言うと「観てない」。
どこで寝たのか見当もつかない。なんだかプールシーンの最中に寝たような気がするが、それも定かじゃない。
この時の自分を振り返ると、恥ずかしい、と言うよりむしろ率先して笑えてくる。
そりゃそうだよ。ビリヤード覚えたての子どもがミネソタ・ファッツと勝負しようって言ってるのと同じなんだから。
ファッツの壁は厚かった。
今なら勝負の最中にファッツが手を洗ってることに気づく余裕もあるが、あの時の自分じゃ例え寝落ちしなかったとしても、ムリ。バートのセリフを聞いて「そんなシーンあったかな?」くらいにしか思わなかっただろう。
颯爽とした姿に気づいてあげられなくて、ごめんよファッツ。
そんなわけで、ストーリーについて知ったのは今回が初めてと言って良いでしょう(胸を張って言うことじゃないが)。
初めて「ハスラー」を観た、いや観ようとした私と同じく、エディはイキッた若者だ。何なら自分の才能に酔いしれてる分タチが悪いかもしれない。
そんな思い上がった若者が、経験と覚悟もなく難敵に挑み挫折。落ちぶれて行きずりの女の家に転がり込む。
ここで出逢うサラがまたエディとどっこいの卑屈な負け犬女子。自分に自信が持てず、自分を捨てた父親が毎月送ってくる小切手で生活し、飲んだくれては青春を浪費する日々。
そんなサラが親指を骨折してボロボロになったエディを支えるべく、急にキリッとし出すのが面白い。
どこの馬の骨ともわからん流れ者・エディの、一体どこが気に入ったのかしら。白黒でもキラキラと輝いているあの瞳かしら。
グズグズと中二っぽいポエムをしたためていた彼女はどこかにスッ飛び、甲斐甲斐しくエディの世話を焼く。ボタンも留めてあげちゃう。
しかし親指の治ったエディはおめかしして出掛けた高級レストランで、性懲りもなくバートとプール勝負に出るという。
サラの中にも予感はあっただろうな。いつもサラの部屋で寝るか、イチャつくか、酒飲むかの三択だったのに、急にお洒落して食事だもの。
こんなんプロポーズか旅に出るか、天国か地獄の二択ですよ。それで地獄なんだから激おこなのはしょうがない。
まぁ、今更だけどサラのキャラ造形がメチャクチャ古い。1961年の映画だから当たり前だけど。
夢を追う男のロマンと、愛されたい女の涙。今こんな映画作っても叩かれるだけだろうけど、意外と筋はしっかりしてるし、エディの成長も苦悩もちゃんと描かれている。
あと、プールシーンは思っているほど長くないし、ゲームのルールがわからなくてもカッコいいショットの連発で楽しめる。
経験を積み、色んな事を糧にしてようやく乗り越えられる分厚い壁。今ようやくこの映画を楽しく最後まで観ることが出来た、ということは、私もファッツと闘える土俵に立てたのかもしれない。