「人生の勝負のかけ方。」ハスラー とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
人生の勝負のかけ方。
前半の息詰まる戦い。
若くて、自分の才能に思い上がっているエディ。
間のとりかた、小首の傾げ方、笑い方…ちょっとしたそぶり。トム・クルーズ様と重なる…。格好良い男は皆似るのか、トム様がニューマン氏を真似したのか?
その青さ加減が痛い。
対するミネソタ・ファッジ。
どことなく、ラッセル・クロウ氏に似ている…。
どことなく愛嬌があるのだが、きわめて冷静に事の顛末を見極める眼。
逆風の時こそ、紳士たれ、の姿に惚れてしまう。
なんて、役者の一挙手一投足を愛でる余裕もあった。
けれど、後半はそんな思いも吹っ飛んで、映画にのめり込んでしまった。
驕り、挫折。そしてまた驕り。
恋人ほったらかして何しているんだ。恋人が場に合わずに悲しい思いをしているのにも気が付かずに、どうにかなるという楽天志向。自分しか見えていない。
二人の時間があったからこその寂しさ。たくさんの人の中だからこそ感じる孤独。
そしてそこに忍び寄る魔の手…。
なぜ、どうして、ああしていれば…。
そんな後悔・絶望の淵からの挑戦。よく王者がその戦いを受けたなあ。冷静に賭け事の行方を追うようで、実はミネソタ・ファッジも損得なして楽しみたかったのかしら。
ピンチになった時こその心構え。
自分を信じる、相手を信じるって?
両極端なエディとミネソタ・ファッジ。
昔の相棒。
恋人。
損得。
誰が勝者で、誰が敗者なのか。
賭けビリヤードの物語だけれど、人生を考えてしまう。
物語・演出がいい。
あえて、白黒での映像。なぜか、ギラギラしている。華やかなパーティ場面もあるのに、場末にうごめく欲望がドロドロする。バスステーションもうらびれて、二人が出会う場としての雰囲気が最高。
そして、勿論、役者もいい。
エディの青さに、ハラハラしてしまう。
サラの、ちょっと人生をあきらめながらも、エディとの関係に温かさを感じていく、それなのに、払しょくできない孤独さに胸をかきむしられる。
ファッツのダンディズムにいつの間にか惹かれる。
そして、バートが、メフィストフェレスかというほど狡猾で押しの強いいやらしさを振りまき、物語にマスタードを効かせる。
ビリヤードのキュー、玉のはじく音、酒、たばこの煙と男の欲と、女の寂しさにむせ返る。
名作です。