「主人公・ジャスミンの描き方が良くも悪くも印象的。」バグダッド・カフェ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公・ジャスミンの描き方が良くも悪くも印象的。
○作品全体
脈略のないシチュエーションのファーストカットから始まり、ダッチアングル、短いカット割り、イマジナリーライン無視のカメラ位置。鳴り響くラジオの音楽も相まって混乱と無秩序な世界から始まる。
この演出がジャスミンにとって不協和音の世界であるというのは、作品後半の気を衒おうとしない、落ち着いたカメラワークが証左だと思う。ただ、ジャスミンを「空き缶を車に持ち込み、夫の言うことに耳を貸さずに果てしない道をヒールで歩いていく謎大き女性」という、突拍子もない登場人物に仕立てているのは首をかしげる。作品後半の周りが巻き込まれるほどの愛嬌と親しみをもったジャスミンと繋がる部分があまりにも少ない。作中にジャスミンが2人いるような違和感を覚えた。
自己表現を言葉と行動で全開に行うジャスミンと、無口でブラックボックスの多いジャスミンの間に奇抜な映像演出を挟む必要が正直無いと思う。ジャスミンの持つ魅力が夫の前では発揮できなかったから「2人のジャスミン」がいたのだ、と解釈しようとしたが、それであれば夫との関係性にもっと踏み込んで「今までのジャスミン」に触れるべきだし、やはり腑に落ちない。
ただ、冒頭の演出と物語が進めば進むほど強くなる違和感が「この物語はどこへ行くのか」という好奇心につながっていたことも事実だ。そしてジャスミンという登場人物の真の姿はどこにあるのかという興味、言い換えればジャスミンのキャラクター力が物語に推進力を与えていた、というのも間違いがない。
ただ、その好奇心が「主人公が新たなコミュニティの中心となり、ポジティブな空間へと変える」という、既視感ある描写に着地してしまったことが、自分の中で残念、と思ってしまったのも事実だし、それが自分の感想の中で一番大きい。
○カメラワークとか
・画面の彩度や色味を変える演出は面白くはあったけど、バグダッドカフェとその周りの空気を伝えるのであれば素の淡い褐色と青空で十分だなあと感じた。