「映画「ミルク」のホンモノ、ここにあり!」ハーヴェイ・ミルク こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
映画「ミルク」のホンモノ、ここにあり!
映画「ミルク」は、この作品がなかったら生まれてなかったかもしれない。そう感じるくらいに、「ミルク」以上に「ハーヴェイ・ミルク」は、同性愛者の希望の星となったサンフランシスコ市制委員ミルクの業績を丹念に描いている。さすが、世界的ドキュメンタリー作家ロバート・エプスタイン!、安定した語り口と丹念な取材のたまものだ。
エプスタインはの人物ドキュメンタリーは、関わった人々へのインタビューを細かく積み重ねて、しかも視点がぶれないことで知られているが、この「ハーヴェイ・ミルク」でも同性愛者たちや移民者たちなどのアメリカのマイノリティーたちにたった目線を大事にしている。
それを強く感じさせるのは、ミルクが暗殺された以降、つまり映画「ミルク」のラストシーンのあとのあまり語られていない部分だ。暗殺した犯人の裁判が、いかにもミルクとは反対側の立場の者たちばかりで裁かれ、暗殺者に有利に展開したことを、エプスタインは批判的な目でとらえている。そこには、ミルクが懸命に努力してきた「人権」を守ることができているのか、という国家への疑問があるからだ。
その意味では、この作品が完成してから25年も経過している現在のアメリカ、そして現在の日本で「人権」が守られているのかどうか、この「ミルク」と「ハーヴェイ・ミルク」の両方を観ると心配にもなってくる。アメリカは前政権がキリスト教一派から支援されていたこともあって、同性愛者たちへの理解が薄かったらしい。一方、「ハーヴェイ・ミルク」の裁判の様子を見ると、日本のこれからの裁判員制度で果たして、犯罪の被疑者と被害者の人権が守られるのかどうか、とても不安にも思えてくる。我々は、この両作からもう一度、「人権」についてキチンと考える力をもらうべきではないだろうか。