「巡礼とも呼びたくなるほどの幻想的で荘厳なひととき」ノスタルジア(1983) 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
巡礼とも呼びたくなるほどの幻想的で荘厳なひととき
新たに生まれ変わった4K修復版を観た。が、本当に「観た」「理解した」と言い切れるのか。その答えに窮してしまうほど、私は相変わらず本作の空気、朝靄、魂、水の滴に包まれながら目の前を過ぎ去っていった荘厳体験についてうまく言葉にすることができずにいる。83年、祖国ソ連の土をもう二度と踏まぬと決めたタルコフスキーが放った、幻想と陶酔と狂気と寂寥の映像世界。私は初鑑賞時(学生時代、VTRにて)に灯した心の蝋燭を今なお携えながらこれからも126分の永遠と一瞬の往復を何度となく繰り返すのだろう。それはある意味、人生を賭けた巡礼であり、はたまた鏡の中の己を覗き込むような所業とさえ言える。人は誰もがアンドレイとドメニコという二つの側面を抱えながら生きている。自分が冷静かあるいは気が触れているのかなんて紙一重だ。だからこそ、ただただひたすら祈り続ける。その姿や絶えざる過程にこそ、生は色濃く迸るのかもしれない。
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