野いちごのレビュー・感想・評価
全5件を表示
小さな変化や忘れてしまった感情に触れる表現が素晴らしい。
◯作品全体
老い先短い主人公・イサクが夢の中で後悔や「孤独という罪」に向き合うことで、少しだけ生き方を変える物語。
夢の中の表現は幻想的な要素もあったが、そこからイサクが理解する事柄は地に足が付いていて共感できた。後悔や妻への想い、そしてこれから過ごす孤独な世界への恐怖。年老いて忘れてしまっていたり鈍感になっていた感情と向き合うような夢の世界は、歳を重ねて頑固になってしまった感情に揺さぶりをかける。ガラッと世界を変えるわけではないが、確実に昨日のイサクとは価値観が変わっている。その小さな変化がイサクにとってはどれだけ大きなことだろう。
自分自身の過去を振り返ってみても納得できるものがある。劇的なドラマチックは存在しなくても、小さく意識を変えたり、世界が変わった瞬間は宝物のように残っている。そういった周りからすれば小さなことでも、自分自身にとっては大事だった一瞬を思い出させてくれるような、そんな作品だった。
ラストシーンではイサクにとって心地の良かった幼少期の景色を夢に見る。夢の世界は決して自分を傷つけるために存在しているわけではない、としているところも、とても良かった。
この作品にはイサクにとって明確な悪というものが存在しない。途中から相乗りする仲の悪い夫婦も危害を存在ではなく、イサクにとっての夫婦とは、というのを思い出させる起点となっていた。
3人の若者も、イサクにとっては人と関わり続けることの喜びを再び感じさせてくれる存在として登場する。
夢の中の出来事は偶然見たものではなく、イサクの無意識化にある忘れてしまった感情たちが旅で出会った人物たちを通して呼び起こされた結果なのかもしれない。
大きな出来事は起きないけれど、だからこそ、忘れてしまっていたり、自分自身でも触れづらい記憶や感情に優しく触れることができる。本作はそういった記憶や感情へ触れる表現が素晴らしかった。
〇カメラワークとか
・最初の夢の景色の不気味な表現が面白かった。横位置のカットとか、謎の男が振り向いたときのびっくり演出とか。意図的かはわからないけれど、白飛びしたような画面に暗闇を映す演出とも違う怖さがあった。
・宿についた時の廊下のカットはキューブリック感があった。
〇その他
・孤独という罪を宣告される夢のシーンは、すごくリアルな感じがした。自分のできることができなかったり、知っていることが言えなかったり。夢の中だと歩けなかったり運転できないみたいな感じが絶妙に表現されてた。
・若者3人組が宿の庭から別れを告げるシーンはちょっとウルっときた。孤独におびえている時に人間として好いてくれている人がまだいるって思えるのは、イサクにとってどれだけ救いになったんだろう。
・過去の回想や夢を挟むけど、一日だけの物語だった。短い時間の中でいろいろな出来事を経験するのも、夢の中っぽくある。
イングマール・ベルイマン
たった1日の些細な出来事たちが、ある1人の老人を成長させた。人はいつでも成長できる。生涯発達という考え方に則れば、精神の成長は、死ぬまで続く。そのきっかけさえあれば。素直で活発な若い男女3人に会ったり、見るからに険悪でこうはなりたくないと思わせるような不仲な夫婦に会ったりすることで動いたイーサクの心は、彼を少しだけ、成長させた。
今日あったことそれぞれは偶然なんかじゃなく、なにかしらの必然性があったんだと感じ、忘れないように書き留めておこう、とイーサクが感じているということが、すごく前向きで好きだなーと感じた。そして僕も、この映画を見てすごく感動したということが、きっと僕を成長させてくれるだろうと感じている。
黒澤明の「生きる」の上位互換って感じがした。「生きる」は、ちよっと説教臭く感じてしまってあんまり好みじゃなかったけど、「野いちご」は本当に好き。若い男女3人のシーンなんて、すごく楽しいシーンだったし。特に最後の部屋を見上げて歌ってるシーンは、イーサクの笑顔も含めてほんとに好き。
共感できれば良いってもんでもないとは思うけど、やっぱり強く共感した映画は、感動しやすい。「野いちご」は、精神的な未熟さの部分に共感した。「僕のヒーローアカデミア」で精神的に未熟である成人を子ども大人と呼んでいたことと、この映画における自己欺瞞の中に生きている人に対する生きる屍って言葉が、少しだけ重なったりもした。
イーサクが受ける孤独という罰や、悩みや不安から目を逸らし、逃げ続けるという姿勢は、すごく共感しながら見た。僕の場合は、悩みと不安と、あと理想からもなのだけど。この、理想から目を逸らすというのが結構つらくて、それはいつも自己欺瞞につながる。自己欺瞞ほど生きる上でつらいこともないだろう。それはわかっているのだけど、理想を見続けることは、あまりにも苦しい。中村文則の「掏摸」における主人公や死んだ元恋人のように、理想のメタファーである大きく美しい塔の幻影に憧れ続けながらも、そこに自分はたどり着けないと確信しているのだ。ならいっそ目を逸らして、そんな理想ははなから持っていなかったと自分を納得させようとしてしまう。だけど、この映画を見て、少しだけでいいから、自分の理想や希望、それから悩みや不安にも、しっかり目を向けてみようと思えた。本当の自分を偽って生きるのは、やっぱり悲しい。
老いや、死、ということに関しては、あまり共感できなかった。今21歳で見る「野いちご」と、例えば20年後の41歳になって見る「野いちご」は、絶対違う映画になっているだろう。それが今からとても楽しみだ。きっとその時僕は、もっとベルイマンや「野いちご」を好きになれるはずだ。
老いて省みる日々・・
タルコフスキーやキューブリックほか名だたる監督たちがリスペクトする巨匠イングマール・ベルイマンの映画ですから素人が感想を語るのもおこがましいのですが・・。
ストックフォルムの78歳の老医師イサク、40年来の家政婦アグダとの二人暮らし、老いのせいか見る夢も棺桶に入った自身に出会う悪夢とかいかにもです。大体、人生も終盤に差し掛かると死への不安とか自身の生き方を省みる傾向が強くなるのでしょう、心象風景の巧みな映像化という点ではベルイマン監督は先駆者のひとりなのでしょう。
母校のルンドへ向かうはずが思い出に駆られたのか青春期に過ごした湖畔の別荘や、老母を訪ねる寄り道、10人兄弟というのも凄い大家族ですが資産家だったようで優雅な生活ぶりでした、一人暮らしの老母の愚痴は子や50人もいる孫たちが訪ねてもくれないこと、たまに来るときは金の無心、世相の反映でしょう。
イサクのトラウマ、心の傷と言えば弟に婚約者を寝取られたことと回想シーンで明かされます、それもあって妻ともうまくいかなかったようです、マリアンヌが語る息子の性格も自身に似て厭世的なのは宿命のような端折った描き方でした。長年医師として社会貢献し栄誉を称えられるはずが自身の夢想では勉強不足で落第のレッテル、地元では感謝されているようですが描かれなかった医師時代の失敗談があったのでしょうか、実像をあえてぼかしているようにも見て取れます、どうも客観的な人物像の掘り下げは監督の好みではないようですね。
ストックフォルムからルンドまでは約600km、東京から姫路くらいの感じでしょうか、長い道中なので二人だけの暗い展開では持たないと若いヒッチハイカーを加えて話に色を添えています。
道中で心の整理がついたのでしょうかルンドに着いてからは物事が一気に好転、マリアンヌの懐妊にあれだけ嫌悪していた依怙地な息子がまるで呪いが解けたかのように悔い改めました、こういう顛末なら息子役のグンナール・ビョルンストランドの鬼気迫る演技をもう少し抑えさせるべきでした。まあ、さんざん気を揉ませて暫時ハッピーエンドですからドラマとしては成立なのでしょう。
夢からのメッセージ
初ベルイマンでしたが、最高!の一言です。本作はベルイマンの代表作の一つと言われていますが、噂に違わぬ大傑作でした。
本作はロードムービーですが、夢に大きく比重が置かれています。旅の中でいろいろと事件や変化が起きますが、どちらかというと夢の中で物語が進んでいった印象を受けます。
主人公・イーサクは78歳の医学博士。大学の名誉教授が授与されるほど職業人としては成功していますが、どうも家族には恵まれていません。
やがて、イーサクは他者との関係性を構築することから逃れ続けた人生を送ってきたことがわかります。情緒的なぶつかり合いを避け、肝心なところで知的な上から目線の綺麗事で済ませてきたため、大事なものを手に入れることができなかった。
重要なことから向かい合わずに逃げると、自分を生きることができず(byホドロフスキー師匠)、虚無に苛まれます。イーサクも例外ではありません。しかも、それが息子にも伝達しており、もはや呪いとなっております。
朝、イーサクは長年連れ添ったおばあちゃんメイドと軽くケンカしたあと、息子の嫁マリアン(美女!)と、ヒッチハイクで拾った若者3人と大学に向けて1日だけのドライブの旅をします。その旅自体よりも、この1日で見る夢が彼を変えていったように感じました。
オープニングに見る夢①にて、イーサクは棺桶に入った自分の死体と対面し、死体に腕を掴まれます。
ここでイーサクが生きるしかばねであることがわかります。しかし、棺桶のイーサクは必死の形相で生けるイーサクにしがみつきます。まるで「本当にそのまま死ぬのか?後悔はないのか?まだ間に合うぞ!」と訴えているように感じました。
ドライブに出てからすぐ見る夢②では、かつての許婚が弟に奪われた過去がわかります(夢②は、夢というより追憶の色が濃い)。
イーサクは偽りの人生を後悔しはじめます。
中盤のハイライトとも言える夢③は、不条理な医学試験を受けさせられるも当然合格できず、孤独の刑を宣告させられます。
夢としてはキャッチーすぎますが、彼は孤独の人生を生きました。しかし、自分で選んでいるようで、実は逃げている。だから、刑を受けているのです。過去のイーサクからの復讐。
マリアンから息子の真実を告げられ、イーサクは苦悶する。妻に対して取った態度に苦悶する。過去と現実からツケを払わされるイーサクですが、かつてのイーサクではないことがここからわかります。
昔のイーサクでしたら、苦悩しませんでした。上から目線で逃げていた。しかし、この日のイーサクは、自分の過ちに真っ向から立ち向かったのです。
これができたのは、夢の力によるものだと感じています。
夢はこの世を生きていない、自分の半身からのメッセージです。イーサクはそのメッセージを無視せず、受けいれたのだと思いました。
これらの夢を見なければ、彼は虚無のまま1日を過ごしたでしょう。これまでの日々のように。
名誉博士号を授与された夜、息子夫婦、おばあちゃんメイドと言葉を交わします。それは、おそらくかつての彼では語れなかった言葉、取れなかった態度が表れていたと感じました。特に、おばあちゃんメイドとの会話は、冒頭の2人の会話と対比になっている印象を受けました。
イーサクの変化はとても些細です。しかし、この日のスモールチェンジは彼の心の奥底で起きたものです。これから彼は生まれ変わります。
本作のラストを飾る、この日の最後の夢は、彼が抑圧して見ることができなかった光景です。このラストシーンを思い出すたびに、胸がいっぱいになります。
彼はホドロフスキー師匠みたいに赦しに至ることはできないかもしれない。しかし、そこに向かう旅に出ることはできる、そんな力強いメッセージが込められた夢でした。
イーサク・ボルイ博士御年78歳。彼の人生はこれからです!
ワシにはまだ早い
デヴィッドリンチやイニャリトゥ、フェリーニなど、多くの映画作家に影響を与えた作品として知られているため鑑賞。
モノクロの映像が美しい、って所までは行った。笑
カメラは殆どフィックスだけどたまにドリーとかある。時代柄というのもあるけど、変にカメラを動かさないから、役者の配置とかに集中出来るんだろう。照明や構図などバチッと決まってるなぁという印象。
物語自体は、おれにはまだ早いかな…
老人が今までの人生を振り返り、自分の誤りに気付き、最後に改まって人に親切にする、という…
まだ20代のワシには早すぎるのぉ。
全5件を表示