「完璧主義者で優秀だったからこそ葛藤する」尼僧物語 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)
完璧主義者で優秀だったからこそ葛藤する
オードリー・ヘップバーン演じるガブリエルが、信仰と現実の間で葛藤し、最終的に尼僧を辞めてしまう理由は、彼女が真面目な完璧主義者かつ人一倍優秀なことにある。
能力も学識も高いゆえにコンゴ行きを他の尼僧に譲らなければいけなかったり、望まぬベルギーへの派遣を、あなた以外に適任がいないからと要請されたりする。あなたしかいないから、と言われて働くことに満足する人も多いだろう。だが、彼女は病院の環境改善にも着手していたように、志がもっと崇高かつ大きい。ただただ求められた仕事をこなす程度で満足する質ではなかった。彼女みたいな優秀な人は、戒律のようなルールを守る側よりも、むしろ作る側に回った方が良い人材だった。能力も志も高い彼女と、柔軟性の無い戒律、そして権限の無い立場との相性が悪いのだろう。
また、ガブリエルは完璧主義的な傾向があり、そして信仰に対して真剣に向き合っている。そのため、戒律に反する自分を人一倍責めた。「お前は自分に対して厳しすぎる」という神父の台詞があったが、まさにその台詞が彼女を表している。完璧主義は、信仰に限らずスポーツでも勉強でも何事においても継続を妨げる要因になると思う。高い基準に達しなかったらもう駄目だと思ってしまい、継続を止めてしまう。
以上のことを考え合わせると、尼僧に必要なのは、ある程度思考停止して盲目的に戒律に従えるのと、信仰に反する自分の気持ちや行動を許容できる適当さだと言える。でもそれで本当に良いのかと思うので、そこが今作が突きつけているメッセージの一つなのだろう。
映画の構成について言及すると、今作は尼僧が主人公でしかも前半は修道院生活だから、地味な絵面で下手すると退屈な映画になったと思う。でも退屈させずに惹きつけさせる。それは、修道院生活の緊張感が、視聴者にも伝わってくるような描き方であり、そこが今作の秀逸な部分の一つだと思う。
あと、鑑賞前はガブリエルが尼僧として大成するストーリーなのかなと思いきや、悩み抜いた末に尼僧を辞めてしまう点が、安易でなくリアリティがありよかった。ラストの開け放たれた修道院のドアを、ガブリエルが出ていくところが余韻を感じさせる点も秀逸だった。
久々に素晴らしい映画を観た思いだ。