「お洒落で、音楽のセンスがよく、テーマが刺激的で」トレインスポッティング tricoさんの映画レビュー(感想・評価)
お洒落で、音楽のセンスがよく、テーマが刺激的で
映画を観続けていた25の頃にこの映画を観て、なんか泣いてしまいました。
僕はドラッグをやっていたわけではないですし、ここまで乱れた生活をしていたわけでもないです。
その頃、僕は25歳にも拘らずまだ学生でしたが、学校での年の離れた同級生との生活に馴染んでいるとは言えず、学校外で付き合う友人達も酷い有様で、家に帰ればアルコール依存症の家族と向き合う生活でした。
大学にも将来的な目標があって入ったわけでもなく、かなり出遅れた人生の中で、この先、何をして生きていくんだろう?と、目標を見失っていた時期だったように思います。
そんな僕にとって、彼らの自暴自棄な生き方や、何度もやり直したいと思いながら結局元に戻ってしまう姿は、自分を見ているような痛々しさがあり、共感してしまったんだと思います。
ドラッグに溺れ、血と金に飢え、家族を泣かせ、仲間を裏切り。
そんな日常を描く映画のどこに共感するポイントがあるんだとは思いますが、多分、レントンが心の底からのクズであればここまで共感はしなかったと思います。
実刑を受けたスパッドの母親に掛ける言葉をためらう姿、子供をなくしたアリソンにかける言葉をなくしている姿、朦朧としながら親と一緒にビンゴ大会に参加している姿。
そんな姿に、彼が悪意に染まりきっていない、人らしい悩ましさを感じます。
レントンは望んでめちゃくちゃの人生を歩いているようですが、僕の中では望まずにその道を進んでいって引き返せないことを絶望しているように見えます。
何も目標がないまま、なんとなく流されて、なんとなくつるんでいた仲間達と遊んでいたらこんな人生になってしまっていた事に絶望しているような。
それは彼に責任はあるのですが、この時代のこの国の若者達にとって、目標をなくして落ちていくということはこうなってしまうという現実でもあったんだと思います。
モノローグで語られる彼の本音は、ドラッグが欲しい、ドラッグを止めたい、やっぱり欲しい、やっぱり止められない。
延々とその繰り返しです。
止めたいのに止められない。そして我慢できないので止められなかった理由を探し、手を出してしまう理由を見付けて許してしまう。
やっていることがドラッグなので犯罪性がでますが、何かに依存して抜けられずにループした経験は少なからず自分にもありますし、アルコール依存症の家族を見続けたことでそれに触れてきた事もあります。
依存すると嘘ついてでも止めたくないですよね。
それを拒まれると相手が一番嫌がる言葉を吐いてでもやろうとしますよね。
本当にそういう人生って最悪だと思います。
でも、彼らが心の底からクズなのか?と言うと、調子のいい時は前向きになりますし、自分がやってしまった事も後悔し謝罪もする。
そういう姿を見ると、まだ戻ってこれそうな気がしてしまう。
けれど、やっぱり抜け出せずにループして、どんどん落ちていく。
この映画を観ていると、そのループをずっと繰り返し見ているような気がしてしまいます。
彼が万引きからの逃走中に車にぶつかり大笑いする姿。
冒頭と中盤と2度出てくる印象的なシーンですが、なるようになれ!とレントンが全てを放り投げたような気がして、この映画で一番痛々しさを感じるシーンです。
今でもこのシーンを観ると、レントンの中で藻掻いていた糸が切れてしまったような感覚になり、やるせない気持ちになります。
ラスト、仲間を裏切り金を持ち逃げしたレントンが、この先どんな人生を歩むのか?は判りませんが、彼が誰かと出会い、負のループを断ち切る人生であって欲しいと願います。
Choose your future.
Choose your life.
イギー・ポップの歌う『Lust for life』にリンクしたこの言葉、大好きです。
映画に関して、ダニー・ボイル監督にとっても、ユアン・マクレガーやその他の役者にとっても彼らが一気に世に認知された出世作になります。
この当時、イギリス発信の労働者の生活苦を背景にした映画が多く、ブラスやフルモンティ、マイナーですがマイ・ネーム・イズ・ジョー等、時代の雰囲気に乗って出てきた作品でした。
評判としては、お洒落で、音楽のセンスがよく、テーマが刺激的で。
これに関しては、本当に自分もそう思います。
まず5人5様のファッションがかっこいいです。
ブリットポップがベースのレントンは坊主頭で、きったないジーンズに、ピタピタのTシャツ、リングのピアス。
当時はグランジとも時期的に被っていたこともあり、とにかく汚いジーンズがかっこいい時代でした。
毎日履いて臭くて我慢できなくなってからやっと洗濯していた時代。
スコットランドで最悪のトイレのシーンなんて目を覆うような不快感ですが、ここまで汚せばやっとジーンズを洗濯できるというご褒美のようなイベントです。
今の時代の復興したグランジとは違う、シャレにならない汚さがこの時代にはかっこよくて、僕もかなり憧れた世代なだけに懐かしく、ただやっぱりかっこいいと思って観てしまいます。
ベグビーのトラッド感のあるスタイルもかっこいいですし、シックボーイのスーツにローテクスニーカースタイル、当時のモードはこんな感じでした。
この辺りのキャラ分けも面白い映画です。
音楽のセンスも素晴らしいです。
作中でも古いと揶揄されるイギー・ポップの70年代の楽曲(デヴィッド・ボウイと同居して薬物治療を受けていた頃の曲?)を数曲採用して、この楽曲のPVのような映像を作り上げてみたり。
ラストシーンのunderworldもかっこいい。
blurからもsingを採用していますし、なによりこの時代、デーモン・アルバーンを出しておけばなんでもかっこよくなった時代でした。
ドラッグ繋がりで言えばルー・リードもヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代に「ヘロイン」とか書いていた人ですし、この辺りの退廃的な音楽の選択が絶妙です。
ファッションや音楽だけではなく映像もお洒落、細かいカットを繋いで音楽に乗せる編集もかっこいいです。
スコットランドの淀んだ空の下、ポップな建物や、通り過ぎる電車のバックに現れる4人や、アビーロードのオマージュや、全力で石造りの街を走るレントンや、草原で喧嘩するドラッグ中毒者や。
何から何まで画になるかっこよさ。
エンディングのタイトルロゴもかっこよくてたまらないです。
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