劇場公開日 1970年6月19日

「巨匠の最後期の作品群をどう見るか」トパーズ(1969) 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0巨匠の最後期の作品群をどう見るか

2021年2月27日
PCから投稿

才能が枯れたのか、それとも、さすがの巨匠も老いには勝てなかったのか。ヒッチコック70歳の節目に公開された本作は、お世辞にも良作と言えない代物だ。もともとスパイ物はヒッチコックにとってお得意の一手だったはず。とりわけ30年代の『三十九夜』などは、その後の同ジャンルの基礎を築いたと言っても過言ではない。しかし、あれほど「映像で語る」ことに長けていたはずの彼が、再びスパイ物へ舞い戻った『引き裂かれたカーテン』『トパーズ』ではすっかりストーリーに振り回され、時代遅れと化している感が強い。これらの作品が生まれた60年代といえば、ちょうど007シリーズが世に出て、あらゆるスパイ映画の常識が一変した節目。ヒッチコックがこの後塵をどれほど意識したかは分からないが、あえて007とは真逆の、リアルな諜報戦を描くやり方を貫いたのだとすれば、それはむしろ巨匠の矜持が窺える”攻めの一手”と評するべきのかもしれない。

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牛津厚信