「これぞ映画という名作」天井棧敷の人々 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
これぞ映画という名作
放送大学231オーディトリアムで2週にわたって視聴。
1部と2部を合わせると、3時間を超える大作。CGもVFXもなかった時代に、圧倒的な数の群集が登場する迫力と熱量。これが、ナチス支配下のフランスでつくられ、しかも全編を通して恋愛映画であることが、逆にレジスタンスになっているという見事さ。「これぞ映画」という名作だった。
描かれているのは、19世紀前半ロマン主義時代のパリ。貧しい幼少期を経て、自由奔放に逞しく生きながら、伯爵に囲われて自由を失ってからは笑顔すらなくなってしまったガランスの姿が、ドラクロワの描く「民衆を導く自由の女神」と重なってみえた。
「ガランス」は、村山槐多の詩に「一本のガランス」というのがあるように、「茜色」。対して、バチストは「白い男」。ラストシーンの謝肉祭は、「青空」の下。
白黒映画だが、トリコロールの三色が揃っているのも、意図なのだろう。
<ここから野崎教授の解説メモ>
・天井桟敷は、パラディ(フランス語で天国)と呼ばれ、原題は「天国の子どもたち」と訳せる。
(子どもと言っても大人たちだが)
・ナチスドイツの占領下で、亡命せずに残ったマルセル・カルネ監督や脚本家で詩人のジャック・プレヴェールなど、当代随一の才能が結集して製作された。
・セリフの重視や名台詞の豊かさ(「愛しあう2人にはパリは狭い」など)が感じられる
・美術や音楽では、ナチスから迫害を受けていたユダヤ人たちの才能も。(非合法に協力とのクレジットあり)
・バチスト、フレデリック、ラスネールの3人は実在したモデルがいた。その人物造形について、監督は、カルナヴァレ博物館の版画部門に通い詰めて肉付けしていった。
・密告をして人々から嫌われる古着屋はナチスの象徴。
・昼の見世物小屋に対して夜の芝居小屋といった対比構造が全編でみられる。
・「自由、平等、博愛」がスローガンだったフランスが、「勤労、家族、祖国」をスローガンにしたヴィシー政権(ナチスの傀儡政権)に支配されていた時期。
・ガランス(Garance)は、フランス(France)に響きが同じ。
・フランス的パラドクスを体現した作品。国威発揚にならないからこそ、誇らしいアイデンティティになっている。
・ラストシーンのカーニバル(祝祭)は、ナチスからの解放を先取りしている。
