「カメラワークと構図にこだわった、ドライブ感あふれる作品。」天使の涙 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
カメラワークと構図にこだわった、ドライブ感あふれる作品。
⚪︎作品全体
暗殺者とそのコーディネーター、そして定職のない聾唖者。それぞれが過ごす毎日は、フィクションにおいてそれほど個性的ではない。そしてこれまたありがちな「パートナーの暖かさと孤独の寂しさ」を物語の軸にしており、正直退屈なシーンもあった。
しかし、彼らの日常を映すときのトガッたカメラワークは、アイデアに溢れていてとても良かった。
まず、カメラと人物の距離感が不安定であることに目を惹いた。極端な手前・奥の構図や覗き見るようなカメラ位置、隠れ家の外壁と大通りや電車を映す超広角なレイアウト…シーンやカットごとに印象が全然違うのが面白い。このカメラワークは序盤こそ暴走気味っぽい気がしたけれど、暗殺業や破天荒っぷりが描かれると、その不安定なカメラワークが心象風景とリンクしていることがわかる。
特に暗殺に関わる2人と聾唖であるモウはカメラワークの趣向が異なっていた。前者は影に生きる人物として画面内の影の部分を強調してたり、なめ構図による空間の狭さが活かされていた。一方で後者はドライブ感あふれるカメラワーク。登場人物と近付いたり離れたり、破天荒な行動を退屈に見せない工夫があった。
こうしたカメラの撮り方によって印象を変えるというのが、物語にもリンクしていたのがまた面白かった。
終盤にモウが父を撮影しはじめるが、父はその映像を嬉しそうに見ている。父が亡くなった後は、今度はモウが食い入るように父の生前の姿を見つめる。パートナーを作ることができなかったモウの孤独の強調でもあり、父とモウという、家族としての特別な関係性を印象付けるものでもある。画質の粗いビデオカメラで撮られた、なんの変哲もないファミリービデオは、この二人だからこそ撮れるものだ。なんの変哲もない、非常に見づらい映像なのにグッとくるのは、カメラワークと演出の妙だろう。
本作の魅力であるドライブ感あふれるカメラワークもこれと同じだ。大したストーリーではないが、映し方によって意味や印象は大きく異なるし、見つめていたくなる。
映像を撮る、または見る面白さを感じたいときに見返したい作品だ。
〇カメラワークとか
・鏡の使い方が面白かった。狭い空間で撮れる範囲が限られる中で、画面の左右を広く使う手段として活かされてた。直接人物を映さないからこその色気もあった。
・車のフロントガラスを接写して、そのままカメラを上に持っていき、バックミラー越しに人物を映すっていうカメラワークがかっこよかった。外の景色を映していると思ったら突如後部座席に座る人物が浮かび上がってくる、みたいな演出。
・ラストシーン、トンネルを抜けた後に見えてくる明け方の曇天がとても良かった。一時的な寄り添いによる孤独からの脱却。でも空は狭くて暗い。単純にハッピーエンドを示唆するわけではなく、あくまでも可能性だけを映す。身近にある景色を少しだけドラマチックにするようなラストが良かった。
・ホームビデオに映る父を見返すモウのシーン。父の笑顔を再生と一時停止で見つけようとする演出がすごく良かった。いいタイミングかと思ったら画面にノイズが入ってしまって…というアイデアも素晴らしい。ビデオテープの特性と併せて父の笑顔を見たいというモウの心情も饒舌に語る。
〇その他
・金城武演じるモウ、アクが強くて面白い人物だった。主人公3人のうちの一人っていうのがまた良いバランス。90分モウだけ見させられるのはしんどそう。
・バーで孤独にふけってるシーンとかは少し長尺すぎた気もする。モノローグと行動で孤独を語ってる分、その姿を映しつづけるのは少し退屈だった。曲を聞かせたかったんだろうけど、もう少し見せ方があったような気がする。
・暗殺者のウォンの最後のミッションは無謀なことをわかっててエージェントが依頼したように見えた。エージェントは会ってしまうと冷めてしまうようだし、自身の安全のためにも…みたいな。
・ホームビデオっていう演出は映されるタイミング、ビデオの画質、被写体の表情とかですごく心に刺さる演出になるなあと思った。『mid90s』とか『カウボーイビバップ』とか。