「今だからこそまた見たい映画 明日の為に」ダンス・ウィズ・ウルブズ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
今だからこそまた見たい映画 明日の為に
人と人、人と自然とが共に生きるってこういうことか。
焚火の前のダンスに胸が締め付けられて叫び出したくなる。狼が友を呼ぶように。
辺境に赴任した白人と、ネイティブアメリカン達が友情を育んでいく。そのプロセスが心に沁みわたる。
望んで赴任したダンバー。一人であることを改めてかみしめて生活している。そこに訪れる訪問者。狼、ネイティブアメリカン。
他のレビューにもあるが、ネイティブアメリカンとの宴の後で、一人で踊るダンス。人と心が通じた後だからこその、孤独。胸が締め付けられる。これほど孤独が胸に響く場面はあるだろうか。
だけど、その後ああなって幸せになるけど、こうなって…、やっぱ切ない。そして侵略者への怒りが…。
侵略者だって、「発展」を掲げた行為。う~ん、発展て何だろう。世界紛争の絶えない今だからこそ、考えたいと思った。
ラストの展開が「そうしたって、攻めてくるじゃん」と不満だけど、感動作。いつまでも余韻が残ります。
ダンバーの間抜けながらも感情移入しやすいキャラクター。
対する蹴る鳥の思慮深さかつすっとぼけた所。
風になびく髪の男らしさ。
10頭の熊の威厳ある態度。
とそれぞれのキャラクターも魅力的。
拳を握って立つ女。忘れかけた英語で、しかも自分も白人なんだけど白人であるダンバーを恐れつつ少しずつ魅かれていく様子が見事。(TVドラマ『メジャー・クライム』のレイダーをやってる方)
ファッションも美しい。そのままではとりいれられないけど。ビジュアル系?パンク系?の方なら参考にできるんじゃないか。
そしてバッファローが、狼が、馬が、大地が…圧巻で、雄大な気持ちになれます。
迫力ある場面と、人と人が、人と動物が心通わせていく場面の緻密さ。
友情は少しずつ少しずつ間合いを詰めていくのだが、恋はあっという間(笑)。
何をとっても文句ない。世界観に酔え、人と人の繋がりに心を鷲掴みにされる。
と、映画だけとっても大絶賛。加えて、
今なればこういう映画は他にも作られているけど、西部劇の余波の残る1990年代にこの作品を作った心意気に乾杯。そしてアカデミー賞を総なめにしたということを考えると感慨深い。
1980~1990年代、日本や欧米は成長戦略華々しい、右肩上がりの消費(使い捨て)国家。そんな中、ブラジルで1992年環境サミットが開催される。マクドナルドのハンバーガーの為に先住民族が住んでいる森が焼き払われるとかがニュースになって、授業でも取り上げる先生もいた時代。ハンバーガーだけでなく、各地で先住民族の方々が、成長戦略の犠牲になっているという報告が相次いでなされた。この年の環境サミットでも先住民族が一つの分科会として取り上げられていた。
そして、1492年のコロンブスによるアメリカ大陸発見後500年を記念してヨーロッパでお祝いしようとして、アメリカ大陸の先住民たちから「我々はその前から存在していた」とブ―ング。そりゃそうだ。
そんなことが影響しているのか、1992年のノーベル平和賞受賞者はグァテマラの先住民・リゴベルタ・メンチュウさん。(詳しくは『私の名はリゴベルタ・メンチュウ』参照のこと)
そして、国連は1993年を「先住民の国際年」に制定。日本で、ここに出てくるネイティブアメリカンの方と似たような同化政策に苦しまれたアイヌのお一人北海道ウタリ協会(当時の名称。現北海道アイヌ協会)理事長が基調講演をしたのに、当時の総理大臣は「日本は単一民族」なんて言っていたっけ。
この映画で描かれた、白人のフロンティアによる、ネイティブアメリカンの方々の住む土地略奪の後、ネイティブアメリカンの方々への同化政策の兇行(ネイティブアメリカン語を話すと、棒に縛り付けられて、土を口に入れられたなんてこともあったそうな)による文化・生活基盤破壊を経て、先住民族の方々の復権ムーブメントがじわじわと拡がってきていた時代。
環境問題に絡んで、各地の先住民族・発展途上国と当時名づけられていた国の方々の世界観が見直されてきていた時代。(日本で有名なのは『パパラギ』?)
そういうムーブメントが拡がってきていたとはいえ、国連が「先住民年」を制定しなければならないほどまだマイナーで、メジャーは「なにそれ?バッカみたい、関係ないじゃん」とバブルを謳歌していた時代。
そんな時代にこんな映画作ってコケたらラズベリー賞という選択肢もあったころ。この映画を作ったコスナ―氏に敬意を表したいです。
で、改めて考える。そのころと今と何が変わったんだろう?
なんてこと考えずに、映画の世界にハマって楽しめる映画です。
けれど、できれば彼らに想いを馳せてほしい。地球が生き残る知恵が、人と共存していく知恵がたくさん散りばめられているから。