「恐れニューオリンズの鬼子母神。 これあんまり“二重処罰の禁止“関係ないような…。」ダブル・ジョパディー たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
恐れニューオリンズの鬼子母神。 これあんまり“二重処罰の禁止“関係ないような…。
無実の罪により投獄された女性リビーが、自分を嵌めた夫への復讐と奪われた息子を取り戻す為に奔走するサスペンス・スリラー。
リビーの保護観察官、トラヴィス・レーマンを演じるのは『ハリソン・フォード 逃亡者』『メン・イン・ブラック』の、オスカー俳優トミー・リー・ジョーンズ。
『ドライビング Miss デイジー』(1989)によりオスカーを獲得した名匠ブルース・ベレスフォードが送る、アメリカ合衆国憲法修正第五条「Double Jeopardy Clause=二重処罰の禁止」に焦点を当てた本格ポリティカル・サスペンス…という皮を被っているが、その内実はシンプルなアクション映画。はっきり言って、タイトルにもなっている二重処罰云々は物語とほとんど関係ありません!!
冒頭だけは大海原の上で起きた謎の失踪事件という本格ミステリーの香りを漂わせている。
誰もが「あっ、なるほど。リビーの冤罪を証明する為、トミー・リー・ジョーンズが探偵役となって捜査していくのね」と思った事だろうが、そんな安易な予想をこの映画は軽々と超えてくる。
まさかあの普通の金持ち奥様が「子供のためなら車の3〜4台お釈迦にしたって構わないわよ!」と言わんばかりに、アメリカ中を爆走しまくる鬼子母神に変身するとは思わないじゃん。中盤からのリビーはほとんどサラ・コナー。収監中バリバリ身体を鍛え始めたからもしやとは思ったが…😅
主演のオファーを受けたジョディ・フォスターが、「私がこんなIQの低い映画に出るわけないでしょ!」と言って退けたとか言わなかったとか。
それもそのはず、この映画の脚本家デヴィッド・ワイズバーグ&ダグラス・S・クックはあのアクション超大作『ザ・ロック』(1996)の脚本を担当したコンビなのです。『ザ・ロック』を書いた人間がウェルメイドなサスペンス・スリラーを作れる訳ないだろっ!!
上質なサスペンスを期待していると肩透かしを食らうが、午後ローを観るくらいのテンションで鑑賞するとこれがなかなか楽しめる。美女が悪戦苦闘しながらターゲットを追い詰めていくというのはそれだけで何か惹きつけるものがあるし、展開もなかなかスリリングで観ていて飽きない。時間も100分少々とタイトに纏められているし、まさに娯楽映画の王道といった感じである。ポップコーン片手にボケーっ観る分にはかなりオススメ出来る。
まぁただ、ジョディ・フォスターがキレたのもわかるほど、サスペンスとしての脚本はヘナチョコ。
実は夫は死を偽装しており、別人になりすましてのうのうと暮らしていた、というのは百歩譲って許すとしよう。何故かホテル王として財を築いていて、めちゃくちゃ目立つ生活を送っていた点に関しても目を瞑ろう。
でも、大前提としてこれ自分に掛かった生命保険を騙し取る為にリビーを嵌めたんですよね。保険金目当ての殺人だという事が分かった時点で、保険会社はお金払わないと思うんですけど…。アメリカでは違うの?
まぁそれも目を瞑ろう。保険金が200万ドル降りて、それが1人息子に相続されたと。わかったわかった。
でも、これリビーが普通に実家の両親に息子を預けていたらその時点で計画はご破綻でしたよね。運良く共謀者のアンジーに親権が渡ったから良かったものの、そうじゃなかったら一体どうしてたんだろう…。
あと、仮釈放中の囚人が州を跨いで逃げ出したら普通FBIとかが動くんじゃないだろうか。保護観察官のおっさんが1人で追いかけるものなの?
あともう1つだけ。そもそも、「二重処罰の禁止」ってこういう事なのだろうか?
日本では「一事不再理」と言うらしく、「事件についての判決が確定したとき、同一事件については再度審理を許さないこと」を指すのだそう。これって例えば強盗殺人を犯して無期懲役になった被告人がいたとして、その後更なる強盗殺人が発覚しても「無期懲役+無期懲役=死刑に罰を引き上げます!」とかそう言うのは出来ないって事ですよね多分。
今回の場合は1回目の殺人と2回目の殺人では同一事件とは言えない訳で、1回目の事件は冤罪な訳だから当然再審となり、2回目の方はまた新たに裁判が必要になるんじゃないっすかね?
こんな事をグタグタ突っ込むような内容の映画じゃないんだけど、なんとなく気になってしまう。弁護士の人に意見を聞いてみたい。