進め龍騎兵のレビュー・感想・評価
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カタルシスがあります 英国の伝説の戦いとして誉れ高い バラクラヴァの戦いがこれです
1936年の米国白黒映画
英国では誰もが知るクリミア戦争でのバラクラバの戦いがクライマックスになっています
ウクライナ戦争で毎日その地名を聞かない日はないクリミヤ半島での戦争が19世紀にもあったのです
その戦争については、1968年の英国映画「遥かなる戦場」をご覧になられらると理解が早いと思います
このバラクラヴァの戦いでは、ロシア軍の堅固な砲兵陣地に対して、英国龍騎兵連隊が無謀とも言える勇猛果敢な突撃を行い、多大な犠牲者が出たものの勝利を掴みました
それが21世紀の今もロシア海軍の根拠地になっているセバストポリ要塞陥落のきっかけを作ったのです
英国に取っては、日露戦争の旅順占領に於ける二百三高地の戦いみたいな位置付けのようです
というか、二百三高地での乃木将軍の脳裏にはこのバラクラヴァの戦いの事があったのかも知れません
映画はインド北東部からはじまります
なんでインド?と思っているうちに、結構な山場が過ぎて、起承転結の転でようやく主人公の部隊がクリミア戦争に向かうことになります
インドでの因縁が、このクリミア半島のセバストポリの近くバラクラヴァの谷で戦いとなるのです
中盤、主人公ジエフリイ・ヴィッカース大尉が、アラビアに軍馬数百頭の買い付けに派遣され、少数の部下と共に陸路その軍馬を率いて黒海の東南岸、今のジョージアの港町バトゥミに届けるエピソードがあります
司令部があるインド最東部のカルカッタから直線距離で5000キロ
買い付け先がカタールとしたらそこからでも2000キロ
恐ろしく大変な任務です
そしてクリミア戦争に備えての重要任務でもありました
少佐に昇進するのも当然でしょう
この昇進により、クリミア戦争が始まると主人公は英軍総司令部詰めに配属され、総司令官の副官となります
これがバラクラヴァの戦いが生起する伏線となるのです
主人公のフィアンセと、主人公の弟との三角関係も織り交ぜて退屈せずに、男だけの殺伐とした戦争のお話にならないようにしてある脚本も優れています
監督はあの不朽の名作「カサブランカ」の監督マイケル・カーティスで、的確な演出です
インドのお話は、冒頭の悪役のスンラット・カーンへの英国からの年金打ち切りの通告が発端ですが、実のところインド版の攘夷に見えます
カーンは攘夷の急先鋒の藩主みたいなものです
インド人の民兵は幕府軍
まかり間違っていたら、日本が舞台になっていたかも知れません
クライマックスのバラクラヴァの戦いは1854年10月25日なので、本作前半のインドでのお話は1853年頃のことでしょう
そうペリー提督の黒船が日本に来航したのと同じ年なのです
原題は、「THE CHARGE OF THE LIGHT BRIGADE」
1968年の「遥かなる戦場」の原題も同じです
原作は、どちらも同名の詩によるものだそうですが、翻案には大きな違いがあります
無謀なロシア砲兵陣地への突撃の理由は伝令のミスとされているのですが、その通説の真相が本作では語られます
もちろんこれも脚色であると冒頭に断りがなされます
本作ではTHE LIGHT BRIGADEを龍騎兵と訳しています
「遥かなる戦場」では軽騎兵と訳されていますが、どちらも英語での呼称は同じです
本作では第27龍騎兵連隊、「遥かなる戦場」では第11軽騎兵連隊という設定になっています
ともあれ龍騎兵の突撃の格好良さ、軍服の華美さは本作の方が圧倒的に上です
負傷して落馬した旗手が、地面に伏せりつつも力を振り絞って英国国旗の旗竿を揚げると、それを通過しざまに別の龍騎兵がその旗竿を馬上から掴み突撃を続けるシーンは圧倒的迫力があります
遂にはほぼ全滅に近い多大な犠牲をだしながらも、前後左右に雨霰とふるロシア軍の砲撃をものともせず、さらにはロシア軍騎兵の迎撃も突破、不可能と思われたロシア軍の野戦司令部の高地を占領するのです
ボロボロになりながらもその高地に翻る英国国旗!
そしてインドでの因縁の仇もその戦いの最中になされます
カタルシスがあります
英国の伝説の戦いとして誉れ高い
バラクラヴァの戦いがこれです
英国がウクライナ戦争で前のめりなのは、170年前のこのような戦いがあったことがその心理の奥底にあるのかも知れません
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