シンプルメンのレビュー・感想・評価
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音楽性溢れる傑作
過去に劇場で観た作品。久しぶりに観ると改めて若々しい映像美と演出力にはっとさせられる。
当時はカイエ・デュ・シネマで特集が組まれる程の衝撃だったハル・ハートリーの代表作の一つ。その登場のインパクトは、フランス映画の恐るべき子供と言われたカラックスとも比すべきものだった。
本作は音楽性が高く、有名なソニック・ユースに乗せて踊るシーンもだが、全編を彩るヨ・ラ・テンゴの楽曲の使われ方が素晴らしい。
ある意味高橋洋氏の言ういい意味での「自主映画」性に満ち、ゴダールやイーストウッド的な光景に独特のオフビート感溢れる演劇的シークエンスの連続が、様々な映画的意匠に埋没することないハル・ハートリー独特の世界観を導いている。
とりわけアメリカ・ニューカラーを思わせる写真的ショットの美しさと、ふとしたパンや移動ショットと共に俳優が移動する鋭いキャメラの映像と動きは、初期ハートリーの才気溢れる演出力の証左となっている。
随所に見られる明らかなゴダールへの目配せも、そう簡単に真似の出来ないであろう車の撮り方等に顕著で。単なるシネフィルではない才能を感じさせる。その意味で邦画における青山真治の名前も思い出した。
登場する俳優は誰しもが魅力的だが、とりわけ女性陣の奮闘と、監督の渋谷系的?趣味性にはにやりとさせられる。
違和感を愉しむ
クセというか、こだわりというかを殆ど感じさせない前半。青を基調とした綺麗な色使いが好きでした。ヒロイン紛いの子も仕草立ち居振る舞いが素敵でしたが、そんなミスリードも敢えてやっているようで、興味深かった。惑わしが多い。思わせ振りな奴が多い。違和感が多い。どれも極力主張を抑えるかのようにクサいセリフを読んでいます。
「何て静けさだ!」このセリフから。静けさ、、何でしょう。観客目線からの心情を汲みしたかのようなスイッチの切り替えにも思えます。一貫した一方的で直線的な演出に、突然入るダンスシーン。歌詞での描写はわかるものの、ぎこちない動き、噛み合わない会話、脈絡のない跳躍には驚きます。振り付けも妙だし、本音吐露吐露だし。全く噛み合わない討論では、それぞれが的確な意見を言っているが会話は成り立たない。時々、思い出したかのように、「観客は?」といった質問が投げかけられる。「観客は観客のままだ。」 これが私たちへのメッセージか。大衆映画を消費する我々観客への意見具申なのか。なんともインディーズらしくまっすぐな速球を投げかける。
コミュニケーションの難しさもひとつのテーマになっているかもですね。裏切られ振られる兄貴、内気な弟、兄貴に銃を渡され誤認逮捕されるバイクの兄ちゃん、聖母マリアのペンダントを取り合う尼さんと警官、イタリア娘を落とそうとフランス語を学ぶガソスタのあんちゃん、ニヒリストな警官、元夫等これまでの人間関係で不信な女、兄弟の親父で活動家のじいさんにお熱な若い女(おまけにルーマニア人)、家庭を顧みず過激な活動に専念する親父。
劇中違和感だらけなんですね。制作側と観客側の齟齬。
でも違和感の出所とその出口は「だって楽しいから」に集約されてしまう。皆んな適当なんだもの。
そんな難しいコミュニケーションにも明るく向き合おうという姿勢が垣間見れたかもしれません。
セリフが良くてメモった
メモったセリフ
法律とは”契約だ”
富と奪い合う仕組みだ
金持ちと貧乏人がね
”違法でもバレなければOK”
素晴らしい!
”でも捕まったら償いを”
それが”契約”だ
道徳に関係ない
強盗にイデオロギーは不要だ
恋と冒険はトラブルの元凶だ
欲望がトラブルを招き
トラブルの中で欲望はしぼむ
ー矛盾だな
ー皮肉だ
皮肉な悲劇だな
愛情や優しさなど神話に過ぎない
拷問部屋で作られたんだ
地獄のね
他人は他人だ
他人の歪んだ欲求や
夢は理解できない
恋なんて頭に釘を打つのと同じ
情熱と欲望の地獄に
自分をおとしめる
笑える動きのダンスはとても楽しかった。
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