審判(1963)のレビュー・感想・評価
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赤狩りとユダヤ人収容所
朝起きると、何の罪かも告げられずに逮捕。いきなりの不条理な世界。歯科医夫人グルーバックの下宿で暮らしていたジョゼフKだったが、つまらないことでいちゃもん付けられ、とりあえず会社で仕事してからオペラ劇場で音楽を鑑賞中にまた刑事に呼び出される。いきなり大法廷での審問が始まるが、ばかばかしさを訴え、その場をしのいだK。やがて明らかに不審な弁護士を訪ねるが・・・
ストーリ的には単なる夢の中のようで、Kの願望をも表現していたのだろう。アパートの隣の部屋は夜の商売をしているビュルストナー嬢。キスを交わす仲のようだが、深い関係にはなっていないようだ。さらに弁護士秘書のレニともいい関係になっていく・・・これはもう男の願望に他ならない。
職場も巨大な事務室だったし、オペラ劇場といい大法廷といい、自分が馴染めないような場所は全て巨大。法廷のドアだって10メートルくらいありそうだった。Kと同様に被告人となっている者たちも大勢いた。明らかにユダヤ人収容所を意識したかのような場所での被告人。法廷の様子も50年代の赤狩りを想起させるし、皮肉めいた部分は興味深いところです。
法律とはいったい何?正義とは何?人が人を裁くってのはありなの?などと、終盤には罪がなくても多数の価値観で人を罪人に仕立てることができると訴えてくるような内容。そもそもその法律は誰が作ったものか?自分だけの法律(刑法)ってあり?主人公Kの不安な心情が影を巧みに操った映像で心揺さぶってくる。巨大な影だったり、揺れる影だったり、ストライプの影だったり・・・画家の部屋や屋根の下の通路などの不思議な遠近感も面白い。
ザ・シネマで観たのですが、本編よりも町山さんの解説のほうが面白かった。作曲家レモ・ジャゾットの「アルビノーニのアダージョ」についてのウンチク、影については『第三の男』、それが影響を及ぼした『ロボコップ』の登場シーン。さらにその影は古い『カリガリ博士』からの影響だということだった。そして、この作品が『未来世紀ブラジル』や『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』にも影響を与えていることも・・・
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