「名作の誉れ高い名に恥じない作品です」終着駅 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0名作の誉れ高い名に恥じない作品です

2019年7月8日
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鑑賞方法:VOD

大昔、シンデレラエキスプレスという言葉があったことを思いだしました
最終の新幹線での別れは男女の恋愛を花火のようにしてしまったものでした

題名通り冒頭のほんの僅かなシーンを除いて全編終着駅ローマのテルミニ駅で物語が進行します

終着駅という雑踏の中での人目を忍ぶ男女の別れの物語です
強烈な磁力のように引き寄せ合う二人の愛情と、それを理性と分別で踏みとどまろうとする葛藤に、列車の発車時刻が迫る焦燥が拍車を掛けます

昔の上野駅地上ホームのような巨大駅の雑踏のなかでの様々な人間性模様も見事に折り込まれています
公衆電話で軟派する中年男
イギリスから帰国してきた失業者一家
救護室の待ち合いベンチで身重の母を心配そうに待つ幼い三兄弟
大統領の出迎え準備で配備されてきた警護兵の一団
海外から出張してきた牧師の一団
騒がしく祝福する親戚一同に見送られて一等車に乗り込む新婚さん
鉄道警察署の署長の温情も心に残ります

主人公二人の別れ話を軸に巨大な終着駅の一日は昨日も今日も変わらず暮れていこうとしています

残照の残る暗い空の闇の中に国際列車の赤いテールランプが消えて行き、ジョバンニは長いホームをとぼとぼと放心して出口に向かいます
この時に涙腺がついに決壊してしまいました

幸せを祈る
できることはそれしかないのです

流石は巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督でした
不倫の別れ話という見も蓋もないそれだけのお話を、普遍的な名作に仕上げてみせてくれました
名作の誉れ高い名に恥じない作品です

ジェニファー・ジョーンズ34歳
美しいです、大人の女性の魅力を存分に発揮しています
モンゴメリー・クリフト33歳
彼の一途さが前半は観るものに反発心を起こさせ、今度は後半では彼に感情移入させる的確な演出とそれに応えた演技は見事そのもの
エンドマークが出たときには、マリアと同じく観客まで、もう彼のことで頭が一杯になっているのです

本作は1953年製作、同年製作にあのローマの休日があります
またその翌年1954年には愛の泉というローマを舞台にした映画が製作されています
その映画はトレビの泉を中心に据えた物語ですが、冒頭長々とテルミニ駅に着く主人公を写しています
きっとあれは本作のオマージュだったのかも知れません
ジョバンニが車に乗りかけてやめる駐車場まで、同じ角度のシーンがあったように思います

本作は1945年の大人の男女の出逢いと別れの映画の名作として有名な「逢びき」に触発されて製作されたとのこと
あちらはロンドン郊外のローカル駅を舞台にした物語で、男女の物語を真っ正面から豪速球で扱っております
お勧めです

あき240