「漠然とだが作家の志を感じる」ザ・デクライン SHさんの映画レビュー(感想・評価)
漠然とだが作家の志を感じる
間違いなく音楽ドキュメンタリーではあるけれども、そこに映し出されているのは音楽を超えたもの。見ていてつらい部分もあるし、気持ちいいものでもない。暴力あり、不潔感が漂っている。しかし、パンクをかき鳴らす奴ら、それを熱く受け止める奴ら、そいつらの内面が非常によくあぶり出されているような印象。もちろん音楽をたのしむためにその場にいる奴もいるし、単にストレス発散の場としてそこにいる者、居場所を求めてそこに行き着いている者など、音楽に群がる様々な思いが激しくぶつかり合っている。
恐怖や悪臭など漂ってくる場面が多々ある。もう目の前が劣悪。それに対峙している作家の志には大いに敬意を表したい。見ている者以上に、カメラを手にしている者は恐怖に苛まれているはずだ。しかし、なぜこの監督はそれに立ち向かっていこうとするのだろう。画面に映し出される若者の情熱とその裏にある作家の志を感じ取ることによって、音楽に対するある時代のある人々のピュアな気持ちを強く感じた。
確かに、音楽によって富や栄光を手に入れようとする野心もあるだろうが、それよりも音楽によって何かを変えてやるという思いの方が強いように感じる。流れ出される音楽群は決して褒められたものではないとは思うけれども、そこに対する情熱はそれほど酷いものではない。まるで次に来る商業主義的な音楽ビジネスを嘲笑うかのようだ。音楽の音色とそこに潜む思いは決して比例するものではないのだろうなぁと考えさせられてしまう。
あれこれ難しく考えないと全く楽しめないドキュメンタリーであろう。
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