「独特の静謐な雰囲気はあるのだが」サクリファイス(1986) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
独特の静謐な雰囲気はあるのだが
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総合:50点
ストーリー: 45
キャスト: 60
演出: 70
ビジュアル: 70
音楽: 65
話は進まない。日常の世間話がひたすら淡々と進み、物語も何もない。前半は笑いも無く怒りも無く、ひたすら落ち着いた雰囲気の中で世間話だけが途切れることなく決められたように続けられる。その世間話も、俳優たちがかぶることもなく交互に科白を言い合う。まるで舞台の科白回しのよう。
後半になって物語は進みだす。しかしこれは本当に現実なのか。戦争だというのに静謐な風景は変わらない。そして何か現実離れした話がふわふわと出てきて、精神の奥からの告白と叫びが続く。夢うつつの中、何か別世界にでも迷い込んだのか。描き出される場面は中世の風景画か人物画のよう。心の静まる芸術的演出と思いきや、心に秘められていたものが出てきて蠢きだしもする。
だが物語はどうもよくわからない。本当に人類の危機を迎えた状態なのか、それでも猶こんなことをしているのか。やはり現実感がない。最早夢と現実の区切りが消え去り交じり合った状態になっている。そうか、だから結局これは現実ではないのだな。一人の男の錯乱する話なのか。それとも本当にあれは現実で彼が自己犠牲と交換に世界を救った話なのか。
監督・脚本を手がけたアンドレイ・タルコフスキーの真意がどうであるかは知らないし興味もない。それぞれの視聴者の解釈次第なのだろうが、現実主義者の私には前者のように思える。その現実主義者を前にして、映画の持つ謎と神秘はあっさりと精神錯乱で片付けられて処理され、私の中では余韻を残すこともなく終わったのであった。この映画の捉え方は人の好み次第でしょう。
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