「比類なき完成度。その悪質なテーマから正当な評価が得られなかった超大作。」国民の創生 koukiさんの映画レビュー(感想・評価)
比類なき完成度。その悪質なテーマから正当な評価が得られなかった超大作。
グリフィスは映画の父として知られ、カットバック、ロングショットといった様々な手法を生み出し、カメラの可能性を提示した。(ジョルジュ・サドゥールによると)本作は1544ショットで構成されており、その多くが歴史的価値をもっている。
クローズアップの発明者については、しばしば議論のテーマとなっているが、ドラマを盛り上げる道具として自分のものにしたという点では、間違いなく彼が第一人者であろう。本作でも多用されており、その効果は抜群だ。
南北戦争によって引き裂かれた2つの家を軸に物語が展開され、リンカーンの暗殺、KKKの結成といった史実の中に白人を襲う凶暴な黒人という偏見に満ちたキャラクターを登場させることで、あたかもそれが彼らの本当の姿なのだと我々は錯覚する。
リンカーンの死によって暴徒と化した黒人たちは街を支配し、白人女性と結婚しようとする者まで現れるが、そこへ顔に白い覆面を被った"正義の制裁を下すヒーローたち"がやってきて、彼を殺し、その死体を”悪の根源"である州知事宅の門前に置く。
こうして黒人軍団とKKKとの争いは激化するが、お察しの通りKKKは黒人たちを弾圧する。この激しい戦闘シーンは、
・白人女性を誘拐した州知事宅
・黒人軍団とぶつかり合うKKK
・家を追われ、小屋に逃げ込むが武装した黒人に囲まれる家族の危機
という3つの状況をクロス・カッティングでスピーディーに進行させており、すでに「イントレランス」を予感させるものがある。
ラストシーンでは、めでたく2組の夫婦が誕生し、イエス・キリストも彼らを見守っている…。
原作は牧師のトマス・H・ディクスン作「クランズマン」で、南部主義者一族の子孫だったグリフィスは、ほとんど遺伝的に反黒人論者であった。人種差別は当時当たり前のように浸透しており、今でこそ批判の的だが、(やはり公開が禁止された地域は少なからずあったようだが)南部では検閲でカットされなかったようである。
また、慈善団体などからの批判さえもこの映画の宣伝効果となり、結局無声映画史に残る興行成績を叩き出すこととなった。
無声映画特有の大袈裟な演技(…が、ほとんどの俳優は模範的ではないだろうか)、誇張された幾つかのエピソード、悪質なテーマを含めても、この映画の完成度はすばらしく、認めたくはないが、映画自体がこれ一本で一気に良くも悪くも複雑化したのだ。
この「國民の創生」を否定することは、グリフィスを否定することであり、ほとんど"映画"自体を否定することになる。人種差別はこの世から抹殺しなくてはならないが、グリフィスの名と、彼の功績はいつまでも語り継がれるべきだ。
「國民の創生」は憂鬱で、悪質な作品である。
しかし、その完成度は比類なきもので、ほとんど時代を超越している。傑作と言わざるをえない。