「テーマに負けた物語」生きものの記録 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
テーマに負けた物語
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見事なショットやセリフに溢れた作品ではあるのだが、全体を俯瞰してみると物語が反核という強いテーマ性を抱えきれていない、というのが正直な感想。
反核というテーマを、『ゴジラ』のような明らかに非現実的な暗喩世界ではなく、我々の実生活の延長線上に存在する現実世界に定立させることで、確かに反核のリアリティや切迫性は増すだろう。しかしまさにそのことによって、喜一の「ブラジル移住」という途方もない計画の滑稽さばかりがいやに強調されてしまっていたように感じた。
作品のアイレベルが現実世界に準拠している以上、受け手としては、水爆を恐れる喜一の気持ちもある程度理解できる一方で、喜一の奇行に煩わされる家族たちの気持ちも同じくらい理解できてしまう。
結果、喜一の主張と家族の主張は同等の説得力を有したものとして対消滅してしまい、その焼け跡には反核というテーマだけが実体のない漠とした概念のまま漂っていた…そんな感じ。
そう考えると、徹底的な虚構世界を作り上げ、そこに恐怖の絶対的対象としてのーーまた同時に核戦争の暗喩としてのーー「ゴジラ」を配置することで受け手の感情の方向をある程度一定化させ、そこを土台に反核論を打ち出していた『ゴジラ』はやっぱりすごかったんだな、と。
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