劇場公開日 1999年5月1日

「シェイクスピアのバックステージものの面白さが躍動する名脚本が生かされた傑作」恋におちたシェイクスピア Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5シェイクスピアのバックステージものの面白さが躍動する名脚本が生かされた傑作

2021年2月6日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

久し振りの期待以上の面白さ、完成された娯楽大作のアメリカ映画としては、フォアマンの「アマデウス」以来の傑作と絶賛したい。まず何より、戯曲『ロミオとジュリエット』創作の舞台裏とウィリアム・シェイクスピアの私生活を題材にしたアイデアと、彼の恋愛経験が作品と重なり合い相互を高揚させ、恋と舞台の素晴らしさをストレートに表現した脚本が巧妙かつ優秀だ。演出のユーモアとスリリングなスピード感、畳み掛ける場面転換のリズミカルなタッチと、気持ち良く観られる。特に、公演場面のシェイクスピアとヴァイオラがキスをする舞台裏と上演場面のカット繋ぎが巧い。ジョゼフ・ファインズ演じるシェイクスピアが鳥の羽で戯曲を書き込むシーンのテンポとその動作。インクが付いて汚れた指、作品が書き込まれた原稿のその紙、と細かいところまで拘る丁寧さもいい。イギリス演劇の歴史ある様式が垣間見える興味深さ。そして、名脚本に溶け込む役者たちの演技の充実度。まず、男装してロミオ役を熱演するヴァイオラを演じたグウィネス・パルトローは、「セブン」以来だが気品に満ちた美しさは更に磨きがかかり堂々とした動作に女優としての自信が溢れている。グレース・ケリーとまでは行かないけれど、惜しむらくはヴァイオラの年齢としてはもう少し若い時に演じたらもっと良かったかも知れない。シェイクスピア役のファインズは、この若き天才劇作家のイメージにピッタリ当て嵌まる男優ではないが、躍動的な立ち振る舞いと台詞回しの鮮やかさには一寸驚いた。愛すべきシェイクスピア像を上手く演じている。役者役のベン・アフレックの特段優れた演技は披露していないものの役柄を充分理解した上で存在しているのもいい。これら全て演劇的素養のある英米俳優人の成果といっていい。その点で、ローズ座の座主ヘンズローのジェフリー・ラッシュは正しく演劇芝居の手本を示して文句の付けようがない。僅かな登場でもアカデミー賞の助演賞を受けたジュディ・デンチは、そのエリザベス女王の衣装とメイキャップだけで存在感がある。大変な儲け役だった。高利貸しフェニマンのトム・ウィルキンスン、シェイクスピアの恋敵の貴族ウェセックス卿のコリン・ファース、実在の劇作家マーローのルパート・エヴェレットと、助演の役者も含めて作品の品格を形成している。

16世紀のロンドンを舞台にしたコスチュームプレイにおける美術・装置・衣装の贅沢さ。その安定感に、喜劇仕立ての脚本・演出のお蔭で余計な重さもなく、映画の語りは現代的なスピード感で処理されている。その良い例として、モンタギュー・キャピュレット両家の喧嘩場面の稽古シーンが、敵対する一座の襲撃に合い虚実一体になるシークエンスのカットバック。そして、恋敵ウェセックス卿とアメリカ新大陸に向かうヴァイオラが、上演芝居見たさ一念で脱走する展開から、上演中にジュリエット役の男の子が変声期と風邪の為に使えなくなりヴァイオラがジュリエットに成り代わるクライマックスの盛り上げ方と、映画的な見応えがある。ラスト、新作『十二夜』に取り掛かるシェイクスピアの原稿と新大陸アメリカを歩くヴァイオラがオーバーラップする決着も粋である。この映画は、トム・ストッパードとマーク・ノーマンの優れた脚本が生かされた作品として評価に値すると強く思う。

Gustav
Gustavさんのコメント
2022年11月25日

IWAOSさんへ、共感とコメントありがとうございます。

この脚本の上手さと面白さは飛び抜けて素晴らしかったと思います。イギリス演劇の批評家兼劇作家のトム・ストッパードと、アメリカのテレビドラマ「スパイ大作戦」も手掛けた脚本家マーク・ノーマンの共作が、シェイクスピアへのオマージュとして完成されていました。いい脚本が映画制作の源泉であることを教えてくれます。脚本には原作が有る場合の脚色と脚本家のオリジナル創作の二つがありますが、この作品の脚本には、原作者シェイクスピアの戯曲を活かしたプロの仕事の充実度と洗練さがあります。いくら原作が優れていても、映画として駄作になってしまう実状を思うと、とても貴重な成功例と思われます。それでも原作の無いオリジナル脚本が、映画本来の魅力であり基本で、アカデミー賞の扱いも脚色賞よりオリジナル脚本が上ですね。

それとリアリティが求められる今日の映像表現では、虚実が問題視されることが多いですが、創作の本流は非現実的世界での人間表現の深奥です。ドキュメンタリー映画に偏ったことが、映画本来の面白さを失っていると個人的には捉えています。噓か眞かと翻弄されながら楽しむのが映画の醍醐味ではないでしょうか。

Gustav
iwaozさんのコメント
2022年11月25日

しかしどこが事実でどこまでが虚構なのかがわからないのが気になりましたね。(^◇^;)
「ロミジュリ」「十二夜」は本当に庶民的傑作だと思うのですが、その2つの成立をこれだけMIXして複雑な脚本を仕上げたのは驚嘆です。
しかし、アン・ハサウェイってシェークスピアの奥さんだったのですね!それも知らんかったのでなんか面白いです。
全然、関係ないけど。f^_^;

iwaoz
iwaozさんのコメント
2022年11月25日

熱いレビュー!感謝です!^ ^
いや〜面白かったですね!
「ロミオとジュリエット」が出来上がるまで、どんだけ二転三転四転するねん!とツッコミそうになるほど稽古しながら現実の状況によって脚本がどんどん変わっていく面白さ!
この傑作、脚本が如何にしてこうなったか、を見事にロマンチックに魅せてくれましたね!(^-^)
斬新な衣装と虚で好き嫌いが分かれそうですが、そこは面白さ優先でいいじゃん!と思わされました。

iwaoz
talismanさんのコメント
2021年5月4日

この映画、すごく楽しくて面白かったです。凄い!って思いました。公開された頃に映画館で見ました。

talisman
2021年2月7日

初コメです。“完成された娯楽大作のアメリカ映画としては、フォアマンの「アマデウス」以来の傑作と絶賛したい。” そうGustavさん さんがおっしゃるのでしたら、観ようと思います‼

オモライくん