「結局、最後に私達は祈る事しか出来ない。」風が吹くとき アルさんの映画レビュー(感想・評価)
結局、最後に私達は祈る事しか出来ない。
配布されていた役所のパンフレットに基づいて話が進むが、決して笑い事ではない。内容を正しいと信じて疑わないジムだが、発信源のわからないネットの情報を盲信する現代の方が寧ろ酷いのではないか。
冒頭も含めて時折実写を交えた描写に軽い違和感はある。ジムの懐古主義にも観ていてキツい感はあるが、大抵の年配者はこんな感じだろう。敢えてゆっくりした物語、極々普通の夫婦の会話、穏やかな軽いジョークを交えて時は進む。
戦争というものに巻き込まれていく国民、実際に私達もどれだけの事が理解出来ているのか。唯一の被爆国として最低限の原爆の知識はあるが、目に見えない放射能に対して有事の際に何が出来るか。
シェルター作成と避難に向けてパンフレットに沿って準備をするジム。戦争や原爆、避難自体にあまり興味の無いヒルダ。正常性バイアス、平凡な老夫婦の家庭という小さな世界が、想像を遥かに超えた原爆投下後の世界に変わる。
広島の原爆を踏まえた内容で、被爆の凄惨さをここまで(表現出来る範囲内で)映像化した事に拍手を贈りたい。
徐々に放射能に2人の身体が蝕まれていく過程がとにかく胸を締め付ける。楽観的過ぎると思っていたジムだが、穏やかな性格であるが故に2人にとっては幸せなラストだったとも思う。
『最後は国が守ってくれるからね。』
『祈りましょう。』
※エンドロール最後のモールス信号。
MADと打たれている。
相互確証破壊、物語途中でジムが言っていた言葉だ。悲しい人間の性(サガ)に胸のモヤモヤが止まらない。
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