劇場公開日 1961年1月10日

「引き返す怪獣」怪獣ゴルゴ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0引き返す怪獣

2022年3月4日
iPhoneアプリから投稿

特殊撮影へのこだわりと遠近自在な演出技法には目をみはるものがあった。序盤に出てくる異形の魚の造形がメチャクチャグロテスクで、来たる大怪物の恐怖を強く予感させられた。それはそうと脚本はかなりアンバランスな出来栄えだったなあという印象。

怪獣の子供を捕らえて市中引き回しにしておいて、いざ怪獣の親がロンドンに侵攻してくると誰もが「助けて!」とか「反撃しろ!」とかいった被害者的な振る舞いに走るというのはちょっとムシが良すぎるんじゃないかと思う。お前らが原因じゃねーか!という。

最終的に人々は「我々の驕傲が此度の災禍を招いたのだ」という反省モードに突入するのだが、かといって怪獣への攻撃の手は緩めない。けっきょく子供を奪還した怪獣がそれ以上街を荒らすことなく海へと帰っていったことで物語は穏便に幕を閉じるのだが、私としては「こんな奴ら全員踏み潰しちゃえよ!」という気持ちだった。

もし仮に怪獣が暴れ続けていたとしたら、人々はどのように振る舞っただろうか。おそらくどちらかが滅亡するまで人類は攻撃をやめなかったんじゃないか。しかしそのような戦勝国的な好戦性を露わにするのは不本意だから、「怪獣側が手を引く」という解決によって強引に事態を収束させた。

おざなりの倫理意識を中途半端に導入するくらいなら、怪獣を徹底的に非人格的な「災害」として最後まで描き切るほうがまだマシだ。不謹慎を承知の上で、やはり核を落とされたことない国にリアル志向の怪獣映画は向いていないと思ってしまった。存在しない痛みを土台にアクチュアルな物語を紡ぎ上げることはきわめて難しい。

因果