「誰にでも何かが響く作品でした。」男と女(1966) ぞうさんだぞう。さんの映画レビュー(感想・評価)
誰にでも何かが響く作品でした。
デジタルリマスター版を鑑賞しました。初めて見ます。
同じところに子供を預けていて偶然出会った男女が、お互いに悩みながらも愛を育んで行くロマンス、とこれだけで説明しちゃうと元も子もないけど、やはり今に残る名作で、恋愛をめぐる気持ちの機微が精緻に表現されていた。しかもお洒落で綺麗。
女はスタントマンの夫を失った悲しみを、レーサーの新しい彼で埋めようとするけど、抱かれれば抱かれるほど前の夫の影がチラつく。前の夫は彼女にとっての青春であり、少女としての自分も全て受け止めてくれていた。しかし子供もいる身の今、自分はある意味で割り切った大人の恋愛を強いられなければならなくなる自分に葛藤する彼女は、結局セックスも半ばに帰ってしまう。こうした彼女の心の動きは、観客は映像を通じて説明されるけれど、男にとっては何の説明もなく帰らされてしまうので、たまったものではない。夜中ずっと寝ずに運転して会いに行ってるのにそれはないと嘆くのも当然だろう。
自分も男なので、見てるときは男側の視点で憤慨してたけど、改めて考えると男の方もかなり強引な行動をとってる。そもそも「愛してる」っていう電報を受け取って喜ぶのはわかるけど、じゃあすぐにでも会いたいからすぐに会うのは、彼女の事情とかそういうのガン無視で自分勝手でしかない。前の夫はどんなときでもニコニコで子供のようにじゃれ合ってくれるけれど、この男はどっか体を求めてる感が否めない。それは女だって悩む要素は多分にあるのである。
最終的に人間性を見つめあった両者は駅で改めて出会い、愛を確認し合う。ラストまで素敵なカタチで締めくくられるけど、ただのメロドラマで終わらないのは、全ての人が内包してる男性的部分、女性的部分を芯をくって表現されているからだろう。ここで描かれる恋愛はヘテロだけれど、その本質は形式にとらわれない。誰だってこの女のように勝手にストーリーを進めて説明もなく自分だけの恋愛を進行させようとするし、この男のようにセクシャルに相手の気持ちも考えずに求めてしまう。
この映画を見て素敵だなあと思うのも、こんなやつクズだって怒るのも正しい受け取り方だと思う。そういう自分勝手なところが、より深い関係を生んでいることを映画は示している。裾野がとても広い面白い作品でした。
あとは同時上映の「ランデブー」もおすすめでした。僕らがおもう静かなパリの街並みを爆音で疾走する爽快感と興奮。車が好きではない自分も、運転する気持ち良さと、暴走してしまう過激さを共有できてしまう危ない作品でした。