劇場公開日 2024年6月28日

「転換期のベルモンド映画~原稿が空を舞う~」おかしなおかしな大冒険 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5転換期のベルモンド映画~原稿が空を舞う~

2024年6月28日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

幸せ

江戸木純さん企画の傑作選をきっかけにベルモンド映画を知り、自分が見たベルモンド作品の制作(公開)年と彼の(推測)年齢順に並べたリストを作ってそれを眺めては幸福感に浸っていました。そのリストを見ると、あくまで自分の趣味の観点ですが、この映画はベルモンドにとって何回目かの転換地点にあると思いました。

ゴダールと決別し、ベルモンドの高度なドライブテクニック、アクション、ボクシング、身体能力を生かし、美しく魅力的なヒロインと活躍する娯楽に徹した30代から40代になりたてまでのベルモンド。その時期の締めにこの映画が来ます。そしてその後に「恐怖に襲われた街」(1975; 42歳)、「危険を買う男」(1976; 43歳)、「ムッシュとマドモアゼル」(1977; 44歳)、「警部」(1979; 46歳)、「プロフェッショナル」(1981; 48歳)、「エースの中のエース」(1982; 49歳)と私の大好きな作品が続きます。

「おかしなおかしな大冒険」は邦題通り最初から「おかしく」て、大袈裟で極端で今までのベルモンドとはかなり様相が異なります。読者が求める「大衆小説」を書く売れっ子作家の頭の中の世界で、007のパロディでもあるからだと思います。都合よく何でもありの荒唐無稽なアクション&ヒロイン映画を皮肉に第三者的に見つめる作家役のベルモンドに味わいがありました。この作品後の上に挙げた一連の映画ではヒロインが居るとは限らず、社会に対するクリティカルな視点、深みのある人生観と若い世代への愛が織り込まれます。

見ていないベルモンド作品はまだまだ沢山あります。ベルモンドという素晴らしい俳優を知ることができて、江戸木さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

おまけ
ジャクリーン・ビセットがとても良かった。社会学を専攻している学生クリスティーヌとドレス姿の大人のタチアナ、どう見ても同一人物に見えませんでした!

talisman