「単体の作品としても十分に面白いけど、アルモドバル監督の作家性を辿る上で最重要と言ってもよい一作」オール・アバウト・マイ・マザー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
単体の作品としても十分に面白いけど、アルモドバル監督の作家性を辿る上で最重要と言ってもよい一作
悲劇に見舞われたマヌエラ(セシリア・ロス)の数奇な物語は、さすが独特の映像美と語り口が特徴のペドロ・アルモドバル監督だけに、目を離すことができないような吸引力があります。派手なアクションや奇想天外なトリックはないけれども、話の面白さを堪能しつつ、マヌエラたち登場人物の心の機微に触れるような繊細な描写を期待しているとすれば、それに十分見合った内容となっています。
もし本作を通じてアルモドバル監督作品に興味がわいてきたなら、彼が本作以降、繰り返し「母」について描いてきたことを意識しつつ、そのフィルモグラフィを辿ってみると面白いかもしれません。
本作以降の同監督作の多くに、この映画の変奏的な要素が入り込んでいる、という点で、『オール・アバウト~』はアルモドバル監督作品の中でも最重要と考えても良いかもしれません。
たとえば本作はマヌエラという女性の視点で物語を綴っていきますが、『ペイン・アンド・グローリー』(2019)では、アルモドバル監督の分身としか言いようのないサルバドール(アントニオ・バンデラス)の視点で「母」を描いています。
また『パラレル・マザーズ』(2021)では、個人的視点以上に民族的な出自と絡めるなど、より広い意味で「母」という存在を描いています。
ここしばらく長編、短編共に作品を精力的に発表しているアルモドバル監督だけに、フィルモグラフィの掘り下げ甲斐がありそうです!
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