田舎司祭の日記のレビュー・感想・評価
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神学生や、躓きと疲れをおぼえている若き牧師・司祭たち、そして老練なベテランたちにもぜひ観てもらいたい、 ピンポイント・ターゲットの映画です
ここのところ、若い神父さんや牧師さんが主人公になっている作品を辿って観ています。
きっかけはヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を数十年ぶりに読み返してみたこと。
あれが“中途脱落”してしまった、後ろ指さされる神学生の物語だったのだと、ようやく理解したこと。
中学生だった当時の自分にはちんぷんかんぷんだったこの「車輪の下」の、聖職者たちや、そこから“失格”していった元献身者たちの挫折の物語が、いまの歳になってようやく初めて、この自分にも深く、そしてたまらなく苦く、味わえるようになったから。
身内として。
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アシジのフランチェスコの作品は数本鑑賞しました。
偽司祭の「聖なる犯罪者」も胸に沁みた。
ルイス・ブニュエルの「銀河」も凄かった。
そして今作はあのブレッソンの手になる1951年の白黒映画。
フランス北部の町に赴任した新任司祭の日記です。
原作者のジョルジュ・ベルナノスとブレッソンは対独戦争時のドイツの捕虜収容所で出会った者同士。このベルナノスは、まさしくカトリックの神学校を中退した経歴の持ち主だった。
ゆえにか、一時とはいえ教会の内側に居た者としての「生の姿」が原作と映像から訥々と語られるわけで。
聖職者=“神の代理人”としての、下にも置かぬ歓待どころか、真逆で、担当した教区での彼への風当たりは冷徹。
ほんの数件の訪問だけで町民の中に隠れていた汚物が、これでもかこれでもかとえぐり出されてくる。
冷遇と無視、噂話と策略。地元の名士や先輩たちからの容赦しない叱責が若き司祭を打ちのめすわけで。
可哀想に。信仰と希望をもって意気揚々と訪れた初任地で、青ざめて潰されていく、この孤独な司祭の横顔が辛いのです。
胃がんと余命の診断をもらって何処にも帰れぬ司祭。さまよう彼がたどり着いたのが元神学校のクラスメイトだった男の家でした。
この旧友は叙階を受けずに世俗の街に女と一緒に“ドロップアウト”していた薬屋です。
死の床に瀕しては、無資格の信徒であっても緊急の秘跡=終油や赦免の宣言は認められている筈なのに、この中退者(ユウジン) は苦しい息の下からの友の懇願を断り、それを施さない。
・・自由な世界に脱出したかのように見えて“無資格者”となった自分を裁き続けていた友人。ことの顛末を独白する「手紙」の、その友人の肉声での
断腸のエンディングだった。
フランスでは1950年代にしてここまで教会離れ・信仰離れが深刻であったことの世情を映し出すドキュメントでもあり、
また「教会の職制」について。そして「神はどこに」という命と引き換えの実存主義的で根源的な問いかけでもあったと思う。
・神を発見してから死んだ伯爵夫人。
・神を呪って死んだ医師。そして
・神を求めつつ死んだこの若き司祭。
三様の死は、二つの大戦を経て、光と闇の間を生き延びてきた原作者と監督ブレッソンならではの、当時の欧州の人々と神学の苦悩が現れた姿でしょうね。
「それがどうした、すべては神の思し召しだ」との投げやりに見える最後の字幕は
「にも関わらず、すべては神の思し召しだ」との確信と安らぎに、限りなく近くて重なる。
迷いこそが人生の本道だと言っているのだと感じます。
日記を独白するだけのたいへん地味な映画ではありますが、いまその場にある当事者の方々がご覧になれば「やっとここに答えが有った」と驚き、言葉を失うほどの共感と、改めての内省を呼び起こされる名作だろうと思います。
間違いなしです。
酔いどれ天使
ロベール・ブレッソンの映画で未見だった一本。
司祭が綴る日記がヴォイスオーヴァーで流れ、ページをめくるように溶暗が入る。
聖職を扱った作品というと、逆説的に性的な不祥事を予想してしまうが、そこはあくまでジャン=ピエール・メルヴィルの「モラン神父」のようにストイックである(一部微妙な箇所もあるが、ブレッソンは省略が多いので定かではない)。ただ、モラン神父が徹底して自己を律しているのに対して、この主人公は胃痛とアルコール依存もあってひたすら煩悶し自滅への道をたどる。
原作者のベルナノスはカトリック作家ということだが、この司祭を肯定的に描いているのだろうか?領主一家の家庭崩壊、シャンタルやセラフィータの役割など複層的な要素があり、どうも判然としない。この司祭が村に善行を施したとも思えず、ただやるせない気分だけが残る。
この映画は私が見たブレッソンの作品の中では最も初期のものだ。そのスタイルは遺作の「ラルジャン」で孤高の高みに達する。
美しい魂の昇華
素晴らしい内容の映画だ。流石に見応えがある。最後の台詞に全てが集約される。「それがどうした?全てが聖寵だ。」これだけの映画は昨今お目に掛かったことがない。今年、一番の収穫だ。
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