「恐ろしい緊張感」アンナ・マグダレーナ・バッハの日記 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
恐ろしい緊張感
一体どんな魔法を使ったのかと疑いたくなるくらい立体感のあるショット。そして鬼気迫るバッハの演奏。じっと目を凝らし耳を澄ませているうちに、画面の内側へ引き摺り込まれていきそうになる。しかし完全に引き摺り込まれる寸前で透明な壁が我々の侵犯を阻む。というのも、カメラの視点が常に人ならざる位置にあるからだ。部屋の隅や、観客と演者の中間や、床すれすれの低地といった亜空間から、カメラは作中のできごとを淡々と記述していく。画面の立体感と音楽の臨場感にグワーっと引き込まれかけた瞬間、今度はカメラの徹底したフィクション性に押し戻されるのだ。接近と離隔のアンビバレンスを慎重に綱渡りしていくような緊張感が絶えずつきまとう。したがって本作を見るにあたっては不断の集中力が必要不可欠となる。いったん綱から落ちてしまうとすぐさま退屈に襲われる。私もかなり危なかった。
私は大学の図書館で視聴したが、なるべくなら映画館で見ることをオススメしたい。座椅子に磔にされながら見たほうがいい映画というものもある。
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