「脚色過多で結構捻じ曲げられてるんだよね」アミスタッド つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
脚色過多で結構捻じ曲げられてるんだよね
1839年に実際に起こったアミスタッド号事件と、それを元に書かれたウィリアム・A・オーウェンスの著書「アミスタッド」をさらに脚色した映画。
この事件が内包する人種差別に対する英雄譚の部分をベースに、現代的価値観とドラマチックさをプラスして描く「政治」と「法」のドラマだ。
アミスタッド号事件の顛末としてはこの上なくわかりやすい作りなので、非常に親切である。元々出版された時点で脚色されて「わかりやすく」「ヒロイックに」なっているところへ、「進歩するアメリカ」「歴史を動かすのは民衆」という観客を鼓舞するメッセージまで上乗せしてくるアメリカ万歳な映画でもある。
スピルバーグの映画の特徴として、「登場人物の誰にも依存しない」という部分があるが、今作もまさにそんな作りだ。
この作品の主人公は誰なのか?といえば、シンケだったり、ボールドウィンだったり、アダムズ元大統領だったりする。ある意味、それぞれを演じる俳優たち全員に見せ場があり、それぞれの演技力を堪能できるお得な側面もあるが、誰にも感情移入させることなく淡々と進んでいく物語にカタルシスを感じることはない。
シンケたちアミスタッド号の黒人たちが果たす役割は、人間としての尊厳などではなく「アメリカの政治的亀裂を決定づける試金石」だからだ。
そういう面でも、この映画は人種差別をテーマにしたとは言い難く、我々が真に目にしたのは政治的駆け引きと、論理よりも感情が優先される陪審制度の欠陥だと言える。
結果として現在の価値観に即したエンディングになっているからハッピーエンドのような気がするだけで、そもそも現在の価値観とは過去の歴史的イベントから蓄積されてきたものなのだから、それも当然なのだ。
映像やストーリーテリングの巧みさは素晴らしく、歴史物の映画として高いレベルで提供されている作品なことは間違いない。
南北戦争へと突入していくアメリカの、歴史の足音を感じられる作品。
ちなみに史実のシンケたちは自腹(寄付)で帰ったそうです。