「「俺たちに自由を!」」アミスタッド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
「俺たちに自由を!」
1839年、スペインの奴隷船“アミスタッド号”で起きた黒人奴隷反乱とその裁判を描いた、スティーヴン・スピルバーグ1997年の作品。
本作の前の作品が『ロスト・ワールド』、後の作品が『プライベート・ライアン』、不遇にも話題作2本に挟まれ、スピルバーグ作品としてはあまり知名度も人気も無いが、個人的には非常に好きなスピルバーグ作品の一つ。
乗組員らを殺害、船はやがてアメリカ沿岸に辿り着き、海賊行為と殺人罪で逮捕、裁判にかけられる。
スペイン側は積み荷の所有権を訴える。
誰も人権を問わない中、弁護する者たちが現れる。
言葉の壁。一体何処から来たのか。
通訳を見つけ、彼らのリーダー的存在であるシンケの口から、彼と彼らの物語が語られる…。
彼らはアフリカ人。
シンケには家族も居た。
ある日突然拉致され、奴隷として売買。
嵐の夜、鎖を外す事に成功、仲間と共に反乱を起こす。
しかし船は洋上をさ迷い、奴隷制度のあるアメリカへ…。
許すまじ奴隷制度。
自由も何もかも奪われ、人ではなく、積み荷として扱われる。
船倉に幾人も重なり合って収納され、反吐のような“エサ”が与えられる。
鞭打ち。
船で赤子を産んだ若い母親は自分たちの運命に絶望し、赤子と共に自ら海に身を投げる。
食料不足の際には、重石と鎖に繋がれたまま、何人もが海に棄てられる。
奴隷商人・奴隷商船はともかく、戦慄の奴隷砦。こんなものが普通に存在してたとは…!
奴隷制度とは一体何なのか。
白人と黒人に何の差があるというのか。
白人は偉いのか、人の自由も生死も思いのままの神か何かか。
奴隷制度を容認した白人連中、奴隷を扱った白人連中、こいつら皆を奴隷の身分に落として、同じ目に遭わせてやりたい。
裁判で一度は勝訴する。
が、不条理な国の都合で最高裁へ。極めて厳しい。最高判事何人もが奴隷を有している。
窮地に立たされたシンケと弁護側に、心強い味方が。
奴隷制度廃止派の元大統領ジョン・クインシー・アダムス。
シンケはかつてアフリカで、村を恐怖に陥れた凶暴なライオンに立ち向かい、奇跡的にも倒した。“奴隷船での反乱”というライオンにも立ち向かった。
そのシンケの勇気を胸に、自由を得るというライオンとの闘いに立ち向かう…。
史実に忠実に、ドラマチックに、手堅いスピルバーグ演出。2時間半の実録社会派歴史ドラマを飽きさせる事なく、引き込ませる。
映像や音楽の力も強い。
何と言っても、シンケ役のジャイモン・フンスーの力演。
言葉も何が争われているのかも分からず、不安と恐怖の裁判中、やっと覚えた英語で“自由”を訴えるシーンは胸を打つ。
アダムス元大統領のアンソニー・ホプキンスはさすがの存在感と、ユーモアも。クライマックスの最高裁での数分にも及ぶ弁論シーンは圧巻。
若き弁護士役のマシュー・マコノヒーは存在感薄いとよく言われるが、シンケとの間に芽生える言葉と人種を超えた友情を体現してるし、モーガン・フリーマンも台詞が無いシーンが多いが、その時も“背景”としてシーンに存在している。
対する検事役の故ピート・ポスルスウェイトの憎々しさも絶品。
スピルバーグのヒューマニズムに溢れた力作だが、久し振りに改めて見ると、不条理な面も見受けられる。
シンケらの味方になるアダムスだが、彼の屋敷にも黒人の使用人が居る。
白人が奴隷制度を作り、白人がそれに異を唱え、白人たちが法廷で是非を争う。
黒人たちは実は蚊帳の外。白人たちの身勝手、傲慢。
後に奴隷制度は廃止されるが、それは人種差別へと形を変え、今も根強く残っている。
最後に説明されるシンケのその後が切ない。
それは人一人の自由が奪われたからだ。
シンケの叫びは永遠に響く。
「俺たちに自由を!」
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アミスタッドについては、近大さんが触れられた通り、人種と自由をめぐる作品ですし、もっと評価されてよい作品と思います。
拙筆ばかりのレビューで恥ずかしい限りですが、今後もよろしくお願いします。