「それでも愛しき人類へ」アビス 完全版 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
それでも愛しき人類へ
DVDで鑑賞(吹替)。
小学2年生か3年生の頃、劇場公開版の深夜放送を録画して観ましたが、あまりにも面白くなくて途中放棄した覚えがあります。否、一応は最後まで観たのかもしれません。
そんな感じなので、本編に関しては曖昧で殆ど記憶がありませんでした。でも何故か、不思議なことにずっと印象に残っていて、大人になってから観直してみる気になりました。
今回観た完全版は劇場公開版より長くなっているのに退屈しませんでした。初めて観た時は異星人との戦いを描くSFアクションを期待していたために拍子抜けしただけだと思います。
改めて鑑賞して感じたのは、人類の傲慢さを描くために、VFXを惜しげも無く駆使した映画と云うこと。人間の独善性の醜さを糾弾する、メッセージ性の高い作品だと思いました。
そのVFXはCGが発達した観ても全然見劣りしないクォリティーで驚かされました。知的生命体がコンタクトを取る方法として、海水が太い蛇のような形になって現れますが、その表現方法が後の「ターミネーター2」におけるT‐1000の液体金属の描写に繋がるのかと思うと非常に感慨深い。
映像表現の幅を広げようと、常に研究を欠かさなかったジェームズ・キャメロン監督のエンジニア魂を感じました。それは「アバター」などの本作以降の作品でも存分に発揮されていることからも分かる通り、我々の予想を遥かに超えるビジュアルを創造するのが上手い監督だと改めて思いました。
海底の資源調査基地が主な舞台のため、そこに集まる人々の群像を描く密室劇が物語の殆どを占めていましたが、ドラマとアクションをバランス良く配置していて緩急が巧みでした。
潜水艇の水中チェイスが白眉。実際に水中で撮影と同時録音を行っているのでリアリティーがあり、実物大の潜水艇と模型を使い分けた特撮シーンが大迫力で見応えありました。
クライマックス、人類のエゴによって生存を脅かされた知的生命体が人類に究極の破滅をもたらさんと起こす津波の描写が圧倒的でした。水がまるで生き物かのように躍動していて度肝を抜かれました。当時の映像技術でここまで出来るのか。
核廃棄物の投棄や石油の無作為な採掘で汚される海。そこに暮らす者の怒りを収めるにはどうすれば良いのか。発展のために環境汚染を続ける人類への警鐘がこめられていました。
しかし、愚かであろうと愛すべきひとつの生命であることに変わりはないと云うメッセージも感じました。自ら過ちに気づき反省し、新しい道を歩むことが出来るのが人間と云う生き物のはず。本作にこめられた願いを心に刻もうと思いました。
※修正(2023/08/29)