劇場公開日 1989年5月27日

アトランティック・シティのレビュー・感想・評価

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3.5パリのChampoで鑑賞

2023年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

狭い通りに日本で言うミニ・シアターが3軒並ぶ、パリでも屈指の(他の人は、そう思っていないかも)5区の映画街。それぞれの劇場がプログラムに趣向をこらし、金曜の夕方7時半になってもまだ明るい通りには人が溢れていた。
フランスを代表する監督の一人、ルイ・マルの回顧上映の第3期(アメリカ時代)の一本。
映画評論家による事前のプレゼンあり。
フランス人の視点から1980年のアメリカを見た、カナダとフランスの出資による映画。
1951年にアメリカ人がパリを描いた時「巴里のアメリカ人」には、憧憬に満ちていたのとは対照的に、シニカルな犯罪映画。但し、配役が秀逸!ルー・パスカルに扮するバート・ランカスターとサリー・マシューズを演ずるスーザン・サランドンが光る。
1980年のアメリカと言えば、国の勢いとしたら、一番落ち込んでいた時期では。大都市には犯罪が蔓延り、多くの市民は中心街から消えていた。大西洋に面したリゾート地であるアトランティック・シティもその例外ではなく、カジノに救いを求めようとする。モナコへ渡ることを夢見てディーラーの研修を受けるサリーと彼女を隣室から覗いていた老ギャングのルー。サリーと疎遠だった夫、デイヴが、駆け落ちして妊娠させてしまったサリーの妹クリッシーを連れて転がり込んで来たことで、物語が動き始める。しかも、フィラデルフィアでくすねた大量のコカインを手にしていた。当然、ヴィニーら組織に追われることになる。
コカインの換金の過程で、老いたルーが活躍し、元締めのフレッドの理解を得て、闇のバーを経営している馴染みの売人アルフィーにコカインを売りさばく。バート・ランカスターは、胸板が厚く、白いスーツがお似合いで、動作に品がある。あの「家族の肖像」の老教授が思い出される。サリーは美しい。スーザン・サランドンの演技は、バート・ランカスターに引けを取らない。撮影当時、特にルイ・マルと交際していたことが関係するのだろうか。
一方で、ルーは階下に住む足の悪い老女グレイスの介護をしている。その関係は、2014年に製作されたアメリカ映画「グランド・ブダペスト・ホテル」に出てきたコンシェルジュとマダムたちの関係と同じ。デイブが連れてきたクリッシーは足のマッサージができたことで、グレイスと仲良くなってゆく。これがいわば、裏のストーリー。
この映画には、アメリカがあの苦境から立ち上がって、現在の繁栄につながるようなシーンはあったろうか。中心街の大きなホテルを破壊撤去し(跡地には、新しいカジノができてゆく)、荒れ果てた中型アパートをリノベーションする。サリーがディーラーの仲間達と古い家を買い取り、修復しようとする場面もあった。
それにしても、ルイ・マルがアメリカをどのように捉えていたのか考えるには、前後の映画をもう少し見ないとわからないと思った。
この映画は、ベネチア国際映画祭の金獅子賞に輝いただけでなく、作品、監督、脚本、主演男優・女優の各分野で、アカデミー賞のノミネートを受けている。海を渡ってきたルイ・マルに対するアメリカ映画界の敬意の現れなのだろうか。

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