愛欲(1937)

解説

原作はフランス一流の文芸雑誌『N・R・F』(新フランス評論)所載のアンドレ・ビュークレの小説で、当時文壇にすばらしい反響を呼んだ名作で、それをフランス映画界の奇才であるシャルル・スパークが脚色し、演出はかつて「不思議なヴィクトル氏」を作った、ジャン・グレミヨンである。往年の名作「望郷(1937)」と同じジャン・ギャバンとミレーユ・バランのコンビが主演する。

1937年製作/フランス
原題または英題:Gueule D'Amour

あらすじ

植民地軍の下士官ルシアンは伊達なガキ大将でキュール・ダムール(口説や)とアダナされていた。ある日彼のところへ、従妹が急死してその遺産一万フランがころがり込む、その金を取りにカンヌの町へ来てマドレーヌと言う女に会う。その女に惚れ込んだ彼はまずナイトクラブで勝負に負けた女に一万フランを投出してしまう。自信満々の彼が一緒に帰宅しようとするが彼女はうっちゃりをわし、おまけに戸に鍵を掛けてしまう。に関しては自信のあった彼は始めて女にうっちゃりを喰いおまけに金まで巻き上げられてしまうが、これ以来女を忘れることが出来ず、除隊するや彼女と再会を思う心で一杯であった。パリ、伊達でお洒落な軍服をすてたルシアンは印刷屋の職人となって、マドレーヌをさがし求めるのだった。やがてその再会の日が来て、彼女は若きルシアンの情にひかれ彼の女となったが、浮気なマドレーヌはぜい沢とお洒落に身をやつして彼を卑屈へ追込むのでルシアンはこれを悩み彼女を断念しようと決心する。ある日彼は二度目のうっちゃりを喰いその為ルシアンの生活は目茶目茶になってしまう。そしてなつかしい昔の面影を慕って姿を現わしたのはオランジュの街の酒場であった。そこで偶然戦友であったルネにあい自分の心をぶちまける。彼はルネからマドレーヌが最近ここへ来ることを聞き、旅の気粉れにルネをもて遊ぼうとしていることを知って驚き忠告するがルネはマドレーヌへの夢を捨てる事が出来なかった。家へ帰ったルシアンはそこにマドレーヌがいるのに驚く。彼女は彼にパリへいって生活しようと話をもちかけたがもはやだまされる彼ではなかった。すると彼女はルネと一緒になると言いだす。自分許りか親友まで卑屈へ追込もうとする女の魔性に怒ったルシアンは思わず女の首をしめつけ女は「生かしてくれ、助けてくれ」と叫びつつ息を引取ってしまう。憐れな運命を持つルシアンを人目をさけてマルセーヌ行きの列車に乗せて逃がしてやるルネの目に涙が光っていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

4.0 ミレーユ・バラン

2025年9月27日
Androidアプリから投稿

30年代の女優の細眉は妖しい雰囲気
女らしさの強調らしいが、ちょっと触角も連想した
ディートリッヒやハーロウが有名だけど
このミレーユ・バランもよく似合う

田舎の駐屯地で色男と騒がれていた男(ギャバン)が美女を見初め
自分が散々してきたことをされたりもするのだが
一途に、あるいは執拗に追いかけてゆく
後腐れをよしとしない色男の流儀は終わりか

軍服効果は抜群で〈脱いだらただのひと〉というのも
最初は理解できない

パリで金持ちの愛人として暮らす女は
その美貌をさらに輝かせるような贅沢な生活を捨てられない
親も使用人もそれを当たり前と考える
〈愛人やめたらただのひと〉と皆やっぱり思うのか

彼女の人間性に疑念を抱き、驚く男の前に現れ
折衷案を出してきたりする

友情を理解する男としない女の違いとも思える
仲間と戦ってきた男とパリで身ひとつで生きてきた女の違いとも言えるだろうか
そして駐屯地の女たちとは異質の冷ややかさ、支配力

それぞれの俳優の持ち味がよく出ていた
そして映像は歯車が大きく狂っていく過程を緻密に見せていた

ミレーユ・バランのその後の人生に起こったことを知り
彼女の美しさがさらに悲劇性をおびて見えた

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jarinkochie

3.5 泣く男

2025年6月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

モテモテの色男(英題Lady Killer)も妖婦にかかると「恋は盲目」になってしまう。あんなおセンチなジャン・ギャバンは初めて見ました。やはり人は見た目なのですね。

本作はさらに訴えます。人は、他人の判断基準として、(軍人とか、医者とかの)肩書きしか見ていないということを。オランジュの食堂の女房は、ジャン・ギャバンが軍人を辞めた途端に随分素っ気なくなってしまったし、新たにやって来た軍隊行進の「影」しか映さない演出は、とても象徴的でした。

これに限らず、凝ったカメラと演出が突き抜けている作品です。パリ ビュット・ショーモン公園での逢瀬の場面のギャバンの高揚感、パトロンと鉢合わせの修羅場での虚勢と失望、そして終盤店での再会の前、シェード越しにギャバンが一瞬怯む描写と暗い部屋の奥に静かに座っているバランの対比。グレミヨン監督のセンスが冴え渡ります。

男たちを翻弄するバランの意図がよく分からないところは確かにありますが、バンプはこれくらい謎めいていた方がいいんです。

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sugar bread

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