劇場公開日 1949年3月22日

「白鳥と黒鳥を演じ分けたヴィヴィアン・リーの透き通る美しさが永遠の輝きを放つ」哀愁 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0白鳥と黒鳥を演じ分けたヴィヴィアン・リーの透き通る美しさが永遠の輝きを放つ

2021年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

47年振りの再見、懐かしく感慨深い映画の一本。
双葉十三郎氏の”僕の採点表”では、1930年に舞台化されたロバート・E・シャーウッドの『Waterloo Bridge』の三度の映画化で一番の出来と評価されている。興味深いことに、日本公開が1949年の戦後であったのに対して、太平洋戦争開戦以前の1940年の上海で”驚くほどの当たりをとったそうである”と記録されている。不穏な時代を反映した題材の典型的な悲恋物語に、当時の国際都市上海の人々が魅了されたのであろう。

観直してまず感心したのが、現代のリアリティやリアリズムの映画様式ではない古典的な運命劇の語り口が、確り構成されていることだった。監督のマーヴィン・ルロイの演出は、特に技巧を見せびらかすテクニックを披露はしていない。丁寧で落ち着いたタッチで、常に安定した構図に人物を収め、主人公マイラ・レスターを引き立たせるアップカットを多用して悲劇のヒロインを前面に打ち出している。当時のスター優先の映画制作ではあるが、「風と共に去りぬ」で一躍脚光を浴びたヴィヴィアン・リーの透き通る美しさと豊かで明確な表情演技があっての作品価値に集約されている。特に婚約者ロイ・クローニンがフランスへ出兵してからの後半の急展開に見せるヴィヴィアン・リーの困惑と一時の喜び、そして罪悪感に苛まれる演技の素晴らしさ。いくつかの見せ場を並べて徐々に盛り上がりを作り、最後精神的に追い込まれたマイラの心情をこれ以上ない説得力で、観る者を説き伏せ納得させる。単なるお涙頂戴の甘いメロドラマと決めつけてはいけない。ヴィヴィアン・リーの自作一番のお気に入り作品とある。スカーレット・オハラとは真逆のマイラ・レスターに誠心誠意込めた演技の成果に本人が満足していることが全てであろう。印象的な場面を二つ挙げると、ロイの母マーガレットと初対面するシーン、そしてウォルタールー駅で偶然再会するシーン。音楽では『白鳥の湖』を基調とした情感のバリエーションと『蛍の光』のロマンティックな効果が生きている。お守りビリケンの扱いも物語の中に無理なく添えられている。

白鳥のマイラが黒鳥に代わった悲劇に、再び白鳥に戻れなかったマイラの純真さにこころ奪われる映画。イギリスの階級社会が軍隊にそのまま組織化されているところも時代を窺わせる。その王子役で大尉のロバート・テイラーは、その美男子振りに価値がある。当時29歳とは思えない渋さと貫禄にも驚く。50代の大佐役の方が自然に見える。いい演技を見せてくれたのが、母親マーガレット・クローニンを演じたルシル・ワトソン。マイラに寄り添う心優しい友人キティは役柄の良さが大きいが、ヴァージニア・フィールドも好感持てる演技。ロイの叔父の連隊長役のC・オーブリー・スミスの身長193センチの立派な体躯と威厳ある風貌も印象的。テイラーと並んでも見劣りがしない。唯一の嫌われ役バレエ指導者マダム・キーロウは、「邂逅」ではミシェルの優しい祖母役で良い役を演じている。

この作品は、映画を観始めて漸くその良さを自分なりの解釈で記録できる頃の想い出の映画だった。その年のテレビで見た名作のベストを記録すると・・・・
①シェーン②シベールの日曜日③ハスラー④理由なき反抗⑤哀愁⑥禁じられた遊び⑦仔鹿物語⑧ローマの休日⑨レベッカ⑩十二人の怒れる男⑪終着駅⑫俺たちに明日はない⑬ifもしも・・・⑭ダーリング⑮裸足のイサドラ⑯イージー・ライダー⑰個人教授⑱慕情⑲史上最大の作戦⑳巴里のアメリカ人㉑旅情㉒アンドロメダ㉓グレートレース㉔空中ブランコ㉕猿の惑星㉖ミクロの決死圏㉗荒野の七人㉘尼僧物語㉙手錠のままの脱獄㉚血と怒りの河
10代の未熟な鑑賞だったから、今全てを観直したら全然変わってしまうだろう。それでも、それも自分の経験として記録することは良いことだと思う。「哀愁」が5位とはね~~。自分でもびっくり。

Gustav